第22章 愛は二人だけの世界(上杉謙信/甘々)
だめだ。
おかしな我が儘を言って困らせたらいけないよね。
謙信様の背中に回していた腕を離して身体を起こそうとすると、今度は謙信様が私を抱く腕の力を強めた。
「やはり、まだ早い。寝ていろ」
「でも…寝坊してしまいますよ?」
「大したことではない」
謙信様も、まるで離れるのが名残惜しいかのように言う。きっと私の我が儘を聞いてくれているんだ…。
申し訳ないような気持ちになる一方で、繋ぎとめられた温もりにほっとしている。
私は素直に、再び目を閉じた。
どのくらい眠った頃か、襖の向こうから誰かの声が聞こえて目が覚めた。
「謙信様、起きてますか?」
この声は佐助くん?
そっか。謙信様が起きて来ないから迎えに来たんだね。
謙信様は上半身を起こし、返事をする。
「ああ、起きている」
「会議の予定ですが、いらっしゃらないので」
「…会議は明日に変更だ」
「変更、ですか?」
え?もしかして、寝坊したせいだよね?
私に構わず会議に行って下さいと口を開きかけると、唇に人差し指が当てられた。
黙ってろってこと?
そして謙信様は妙な言い訳を始める。
「俺は病にかかっている」
「…?体調が優れないんですか?」
佐助くんの声は、驚きと心配が入り混じっている。
「俺だけではない。迦羅もだ」
「迦羅さんまで…?」
「ああ。恋の病にな」
えぇー!?そんなこと言う!!?
あまりに予想外な発言に、聞いている私のほうが恥ずかしい!
「・・・・」
佐助くんも困っているのか返事がない。
「おい佐助、何とか言え」
「…それは大変です。皆にはうまく言っておきます」
えっ?それでいいの?
あっさりと言い訳を聞き入れた佐助くんが、廊下を去っていくのがわかった。