第20章 君へ捧ぐ謌(徳川家康/甘め)
「ねぇ家康。ちょっと寄り道していいかな?」
「いいけど、何処に?」
本当は早く帰ってうんと甘やかしたいんだけど。
「前に家康が連れて行ってくれた所」
満面の笑みを向ける迦羅。
見慣れてるはずなのに、どうしてこんなにドキドキするんだろ。
迦羅が行きたいと言ったのは、城下はずれの野原だった。
確かあの時は、まだこんなに近付く前。
でも、あそこで初めて迦羅を腕の中に抱きしめたんだっけ。
「じゃあ暗くなる前にさっさと行くよ」
「うん!」
ごく自然と指を絡めて手を繋ぎ、まだ人の行き交う城下を歩く。
時々触れ合う肩も、不意に合う視線も、そして、握れば握り返してくれる手も…何もかもが俺の『好き』を刺激する。
しばらく歩いて、町外れのあの野原に辿り着いた。
まだ残る陽射しの中で、小さな花達が微かな風に揺れている。
「やっぱり、綺麗…」
迦羅も、昔俺と来たことを思い出しているみたい。
あの時は夜だったし、花どころじゃなかったから何とも思わなかったけど、こうして見ると良い景色だったんだね。
でもそれはきっと、隣に迦羅が居るから。
きっとあの時から、俺はあんたとこうなることを望んでたんだ。
溢れてくる色んな想いを感じながら、二人で野原に腰を下ろす。
ことん、と迦羅の頭が俺の肩に寄る。
「私ね、あの時に気付いたの」
懐かしむように話し始める迦羅の顔をチラリと見る。
「家康のことが好きなんだって」
恥じらいを含んだ笑顔を向けて、腕を絡めた。
あー。
こういうの本当、幸せって言うのかな。
好きな子が、好きって言ってくれて。
隣に寄り添ってくれて。
あれもこれもって望むだけが、愛じゃない…のかな。