第18章 魔王の誓い(織田信長/悲甘)
夕餉を終え、天主へと戻っていた。
いつものように縁に座り、何ともなく外を見やっている。
この隣に迦羅の温もりがなくなってから、随分時が過ぎた。
だが、いつまでも慣れないものだ…。
あれほど眠りにつけていたのが、今となってはまた眠れぬ夜を過ごすようになっている。
「…迦羅」
星が散りばめられた空に、愛しい人の名を浮かべた。
ー楽しい夕餉を終え、私は与えられている部屋に戻ってきた。
今日の昼間、この城で針子をしているという女の子に、私も針子をしていたんだと教えられた。
そう言われると、着るものを作るってことが何だか懐かしい。
押入れを開けると、裁縫道具と…白生地に細やかな刺繍の入った縫いかけの羽織があった。
「私が縫っていたのかな…」
その羽織を手にした時、頭に鈍い痛みが走る。
「!!?うっ…」
何だろう、痛い。痛いよ…。
耐えきれず畳に座り込む。
頭痛はしばらく続いたけれど、霞がかっていたものが、次第に晴れていくような心地がした。
その感覚を追いかけていくと、頭の中に誰かの姿が巡った。
(今戻った)
(貴様が幸せであれば、俺もまた幸せだ)
(俺が必ず守る、何も心配するな)
(迦羅、愛している)
愛している…?
気付けば私の目からは止まらない涙が溢れていた。
私は、なんて大切なことを忘れていたの…
どうしてこんな…大事なことを忘れたの?
この胸の中には、今までこの安土で過ごして来た日々が一瞬にして蘇ってくる。皆で楽しく笑い合っていた日々も、あの日、敵の手にかかり信長様の前で斬られたことも。
その時、私を腕に抱きながら信長様がどんな顔をしていたかも。
「信長様…」
居てもたってもいられず、天主へと駆けていた。