第18章 魔王の誓い(織田信長/悲甘)
迦羅が目を覚まさぬうちに、すでに五日が経っていた。
熱は治まり、呼吸は静かに、安定している。
あれから城へ戻った武将達は、顕如を捕らえていた。
その顔を見ることもなく、厳重に牢へぶち込めと命じただけだ。
「信長様、少し休まれてはいかがですか?」
部屋へやってきた秀吉は幾度となくそう声をかける。
迦羅を連れ帰ってから、俺はそのそばを片時も離れずにいた。いや、離れることが出来ないでいた。
「俺に構うな。下がって良い」
誰と言葉を交わすことも、必要ない。
これは俺の責任なのだ。
しばらくの沈黙が静寂を保っていた。
しかし、俺の背後に立つ秀吉の気配には、強い怒りのようなものがまとわりついているのを感じた。
俺の横に周り、秀吉が片膝をついて口を開く。
「畏れながら正直に言わせていただきます」
強い意志を含んだ声だ。
「信長様が自責の念に駆られているのは重々承知しています」
「しかし、迦羅が目覚めた時、その時に信長様がそのような姿であれば迦羅はどう思うでしょうか」
秀吉の言葉に何かが小さく弾かれ、俺は静かに秀吉に目を向けた。
「今ここに居るのは、俺や他の者、そして迦羅が心から慕っている信長様ではありません」
「…何とでも言え」
すると再び襖が開き、政宗と家康が現れる。
「同感だな。信長という皮を被った、腑抜けたただの男だ」
「あなたが心底後悔して己を憎んでいると知れば、それこそ迦羅を傷付けることになると、わからないんですか」
「何だと…?」
「その身を持って信長様を救おうとした迦羅に、心を病んで死人同然の姿を見せないでいただきたいと言っているんです」
矢継ぎに言葉で侵略され、俺の心は揺らいでいる。
死人同然…か。
この俺も、哀れなクズになり下がったか。
己の蒔いた種であることは承知している。だが、今こいつらの言うことも、理解出来る。
俺は、俺であらねばならん。
この先にたとえ何があろうと、もう二度と、守れなかったなどと…この俺が許さん。絶対にだ。
規則正しい呼吸で眠る迦羅の頬を撫でたあと、朽ちかけていた心を取り戻すために、静かに部屋を出た。