第18章 魔王の誓い(織田信長/悲甘)
俺は今悪夢を見ているのか。
俺を呼ぶ迦羅の悲痛な声に振り返ると、そこにはこちらへ向かい走る迦羅と、そのすぐ背後で刀を振りかざしている先程の男がー
俺は刀を抜き必死に迦羅の元へ駆ける。
「く、その女に手をだすなー!!」
「信長様っ…」
迦羅の伸ばす手を掴む直前、無情にも振り上げられた男の刀はー迦羅の背中に容赦なく切りかかった
倒れ込む身体を抱き留めると、横からすかさず秀吉が一刀のもと男を切り捨てた。
「迦羅っ!迦羅ー!!!」
腕の中で、痛みに苦悶の表情を浮かべて、俺の顔を見上げる。
すると…涙を浮かべながらも、力なく微笑むのだ…。
「信長様……無事で…」
馬鹿者が!俺のために何故貴様がこんなー
迦羅の身体を抱く腕には、生温い血の感触が広がっていく。
「信長様!手当てをします、早く!」
現れた家康のひどく慌てた様子を見て我に返る。
天幕へ運び、家康が応急処置を施していくが、傷は深い。
「あくまで応急処置ですから、一刻も早く城へ戻りきちんと手当てをしなければ…」
神妙な面持ちで告げる家康に、危険な状態であることは十分過ぎる程にわかった。
「すぐに城へ戻る。秀吉と家康は共に来い」
政宗や三成、光秀にはあとの本陣の撤去と兵を任せ、日が暮れた中をひたすら馬を走らせた。途中で秀吉が、顕如が現れる可能性もあると言ったが、そんなことはどうでも良かった。
しっかりと抱き締めている腕の中で、いつ消え入ってもおかしくはない迦羅の呼吸を聞きながら、これほどの恐怖を感じたことは初めてだった。
頼む、死なないでくれ迦羅ー。
秀吉の言った通り、帰路の途中で顕如とその手下が森の中から突如現れた。
「秀吉、家康、頼まれてくれるな!?」
無言で頷く二人を確認する。
「おのれ信長、この俺を前に逃げるか!」
背後から顕如であろう怒号が聞こえてきたが、振り返りはしない。
逃げると思われようが、俺は今貴様のような汚い男に構っている暇などないのだ。
たとえ迦羅がこのような目に遭う原因を作った男であってもー。
俺は止まることなく一晩中馬を走らせ続け、ようやく城へ戻り着いたのは、夜が明けきった頃だった。