第18章 魔王の誓い(織田信長/悲甘)
ー今、織田軍は東の地にて、顕如が立ち上げたという小国の連合軍と戦っている。
ここへ向かっている途中で、信長様は今回の合戦の首謀者が顕如であることを教えてくれた。言うか言わないか迷っていたようだけれど、知っていれば、私も警戒のしようがあると教えてくれた。
私が見ても、この合戦は織田軍が圧倒している。
でも、敵軍の中にまだ顕如の姿は確認出来ていないと、先程三成くんが伝えに来てくれた。
信長様は私を馬の背に乗せて、戦場に出ると言ったけれど、私がそれを断った。戦いの最中に出て行くのが怖いわけじゃない。
信長様が私を守ってくれようとしていることは良くわかっている。
でも、私は私が出来ることをやらなければ。
戦場まで来て、ただ信長様の背に守られているわけにはいかない。
何度も合戦を目の当たりにしてきた私は、看護兵の皆と、運び込まれて来る手負いの兵達の手当てをしていた。
勿論信長様に言われた通りに周りにも目を向け、異変がないかを確認しながら。
そして、僅かに日も暮れ始めた頃、織田軍が圧倒的な武力で敵を抑え込み、前線に出ていた信長様は私の居る看護拠点へと戻って来た。
馬を降り、私のところへ足早にやってきては頬を撫でた。
「変わりはないようだな、安心した」
「はい、大丈夫です」
信長様の笑みと傷一つない姿に、私も心底安心した。
後から戻って来た秀吉さんは首を傾げている。
「顕如は…現れませんでしたね」
「ああ」
「念のため周囲の森にも偵察を出していますが」
「帰路の途中で仕掛けてくるかもしれん、油断は出来んな」
ーその時、奥の森のほうから、肩から胸のあたりを真っ赤な血で染めた者がふらりと現れた。織田の兵服だ。
倒れ込みそうな足取りでこちらへやってくると、
「森の奥に…顕如の手下と思われる者達の姿がっ…」
「何だと?秀吉、本陣にいる皆に知らせろ」
信長様は先に秀吉さんを向かわせると、森に近いこの拠点を下がらせるように指示を出した。
そして私にもすぐに離れるように言う。
「待って下さい、この方の手当てが先です!」
出血がひどい。このままにはしておけない。
信長様は険しい顔をしながらも頷く。
「そうだな、任せた。だが終わり次第すぐに下がれ」
ひと足先に、信長様は本陣のほうへ歩き出した。