第18章 魔王の誓い(織田信長/悲甘)
明朝。
広間には俺以下、武将を始め戦に参加する家臣、城に残る家臣すべてが集まっていた。
この場には迦羅も居る。
「昨晩、東国より戻った者がいた。その者の報せによるところ、東国の謀反軍が動きを見せるのは暫し先であろうとのこと」
秀吉が通る声で、集まった皆へ説明していく。
「織田傘下の小国へ謀反を持ち掛け、裏で糸を引いている者が居る。名の立つ武将ではないが、油断するな」
武将ではないと聞き、家臣らが騒めき始めた。
「御前であるぞ、静まれ」
秀吉が一喝するとまた、しん、と広間に静寂が戻る。
「武将ではないとて、恐ろしい男よ」
上座から俺が言葉を投げると、皆の視線は自然と集まった。
「本能寺にて、この俺を殺そうとした男だからな」
「何と…」
「一度信長様のお命を狙ったあの者が…」
鉄扇をカキン!と閉じる。静寂が戻った広間に指示を出す。
「東国が動かぬ限り、こちらから出てやる気はない。皆、各々の務めを全う出来るよう準備しておけ」
「はっ。」
一同に頭を下げた家臣達はすぐに広間を去って行く。
さて、残った武将達と、迦羅。
このような軍議の場にも関わらず、迦羅は毅然としている。
「迦羅、今回は俺と共に来てもらう」
「信長様の命であれば、私は行きます」
力強い光の宿った目をしている。
「信長様、しかし今回は…」
そこまで言いかけた秀吉を目で制する。
考えていることはわかっている。
顕如のことだ、また何処から何を仕掛けてくるかわからん。
しかし、手薄になる城も安全ではない。
迦羅はこの手で守る。
覚悟を決めて、決して弱さを見せない迦羅の真っ直ぐな目とぶつかる。貴様が俺を信じるように、俺も貴様を信じている。
「必ず俺が守る、何も心配するな」
迦羅は柔らかく微笑み、その言葉に応えた。
まだ続く軍議を伝え、迦羅には先に退席させた。
顕如が寄越したあの文ー
最後にこう書かれていた。
(そして俺は、貴様を殺すためであれば、如何なるものも利用してみせる)
その一文に、何故か妙な胸騒ぎがしている。