第18章 魔王の誓い(織田信長/悲甘)
広間には俺と秀吉、光秀と政宗。
そこへ家康と三成も次々と報せを受けて駆け付けた。
「お、畏れながら…ご報告を、」
「前置きは良い。要件だけ話せ」
「先より、探っていました…東国の動向、ですが…」
深手の男は息の続く限りで、途切れ途切れに話を始めた。
「現在…三の小国が手を、とり、その兵は…一万とも、一万五千…とも」
「すでに進軍を始めたか?」
「い、いいえ。…今暫く…先に、なるかと…」
次第に男の顔は蒼ざめていく。
「東国の、裏に…は…、この件を動かすっ、僧…が」
そこまで言うと表情は崩れ、傷付いた身体では姿勢も保てなくなっていた。
しかし、この俺を標的にする僧とあらば心当たりはある。
男は力を振り絞って、胸元から、血で汚れ皺だらけになった紙切れを取り出すと、俺に向けて手を伸ばす。
「どうか…これを、その、僧とは…顕、如」
言い切ると最早呼吸は乱れて苦悶の表情となる。
「この者を手当てする!急げ!」
家康が即座に声を張り上げ、家臣達が男を抱え別室へ連れて行く。
俺の手に残った血に濡れた文を開く。
そこには、怒りに任せて書き殴ったような、深い怨念でもあるかのような文字がしたためられている。
ー俺は幾日も幾日も、貴様をこの手で殺す夢を見ている。
何と心地の良いものであろうか。
しかし、夢であるのは今少しの間であろう。
俺はいつでも貴様を殺す機会を伺っていることを、ゆめゆめ忘るるな。
そして俺はー
「顕如とかいう奴は、本能寺ん時の坊主だろ?」
「ああ。間違いない」
「手下の破戒僧どもを掻き集めたところで織田の軍力には到底敵わねぇ。それで小国を上手いこと言いくるめて兵を出させたってわけか」
気に入らねぇ、と政宗は不機嫌な顔を見せる。
「向こうの進軍の準備は整っていないようですが、こちらも早急に兵を整えておきましょう」
三成も顔を引き締める。
「信長様、この件いかがしましょう」
「兵は一万。東国が動き次第、出る」
たかが小国であればこれだけの兵は不要だ。
だが、奴が出るとなれば、何を仕掛けてくるかわからん。
「明朝より、顕如率いる謀反軍討伐の策を練る。良いな」
「御意」
そうは言ったものの、皆既にその場で、様々な意見を出し合い明日の軍議に向けて話し合った。