第18章 魔王の誓い(織田信長/悲甘)
静かに天主へと戻る。
「今戻っー」
いつものように帰りを告げるか否か、襖を閉めた途端にふわりと身体に懐かしい温もりが被さった。
俺の腰に腕を回し、胸に頬を擦りながら、存在を確かめるようにして迦羅が其処に居た。
「お帰りなさい…」
少々涙声であった。
「ああ、ただいま」
それに応えるように愛しい身体を抱く。
これだけの時間離れていたのは久しぶりのことだったが、随分と待たせてしまったようだ。
「こうして帰ってきたんだ。泣くな」
「…無事でなによりです」
ぐっと涙を堪えて笑みを見せる迦羅がこの上なく愛おしい。
ここしばらく、泣き言を言わなくなった。
心配するなと散々言い聞かせてきたのもあるが、恐らくその胸の内には、言葉にはしない様々な思いがあるに違いない。
俺と共に生きると言った日から、強くなろうとしている。
「…迦羅」
込み上げてくる熱いものを言葉には出来ず、正面から俺に向き合う愛する女に、口付けで伝える。
「信長様。私は、幸せです」
そう言うと、花が咲いたように笑った。
「貴様が幸せであれば、俺もまた幸せだ」
そうして温もりに触れていると、突然慌ただしい足音が近付いて来た。
「信長様!宜しいでしょうか」
襖の向こうで声を上げているのは秀吉のようだ。
「何だ」
「只今東国より戻った者が」
険しい顔つきの秀吉に何事か起こっているのを察する。
迦羅のほうを向き直り告げる。
「案ずるな、ここに居ろ」
頷くのを確認し、秀吉と共に足早に天主を出た。
広間へ着くと、やれ傷だらけでボロボロの姿となり、深手を負っている者がひとり、家臣に支えられた状態でひどい呼吸をしていた。
一足遅れてやって来た光秀はその者を見るや
「お前はっ…!何があった!?」
どうやら光秀が東国へ送り込んでいた手下のようだ。
男は息も絶え絶えに口を開くー