第18章 魔王の誓い(織田信長/悲甘)
織田軍が安土を出発してから、城の中はいつもと変わりなく過ぎて行った。
城に残った政宗や三成くん、光秀さんは、万が一手薄になった城を突かれることも考えて気を張り巡らせているが、今のところそういった気配は何もないみたい。
私は信長様や皆の身を案じながらも、自分のするべき仕事をこなしていく。やはり心配ではあるけれど、信じているから。
織田軍が勝利を収め、皆が無事に帰ってくると。
仕事を終え、部屋に戻った私は、以前信長様に贈ろうと縫いかけだった羽織を手に、針を進めていた。
しばらく夢中になり、一区切りついたところで、一息入れようと手を休める。襖を開くと、茜色に包まれ始めた景色がある。
もう見慣れたはずの景色なのに、何故か一際目に焼きついた。
「よー迦羅」
廊下の向こうから片手を上げて政宗がやって来る。
「迦羅様、こんばんわ」
後ろから三成くんも顔を出す。
「揃ってどうしたの?」
「朝からこいつの顔ばっか見てるから飽きちまってな」
冗談混じりで政宗が三成くんを指差すと、負けじと三成くんも言い返す。
「私もいささか政宗様のお顔が見飽きてしまいました」
仲の良さそうな二人を見ていると、何だか可笑しくなって。
そのまま縁側に三人で座り、暫しの間他愛もない話をした。
「お前も変わったな」
感慨深そうに政宗が私に視線を向ける。
「そう?変わってないと思うけどなぁ」
「私も、迦羅様は少し変わられたと思いますよ」
三成くんまで。
「何つーか、強くなったんじゃねーか」
「んー??」
良くわからないけれど、そう見えるのかな。
「前のお前なら、戦に出てった信長様のこと考えちゃあウロウロしてたもんな」
懐かしむように政宗は笑っている。
でも、確かにそうだったな。心配するなと言われれば心配して、待っていろと言われても待ちきれなくて。
そう考えたら私は変わったのかもしれない。
「今はただ、信じているから」
そう言うと政宗も三成くんも、安心したように口元を緩ませた。
「お前もこうして居城を守ってんだ、立派だろ」
「そうです。だから皆が安心して帰って来られるんですよ」
二人の言葉にくすぐったくなるけれど、心の底から、そう言ってくれてありがとうと感謝した。