第18章 魔王の誓い(織田信長/悲甘)
天主に戻ると、迦羅は縁に座り月を眺めていた。
「今戻ったぞ」
「お帰りなさい」
振り向いて愛らしい笑みを見せる。
ゆるりとその隣へ腰を下ろし、共に月を眺める。
この乱世、まさに激動の時代だ。
人の命を奪うことも、そして、いつかは自らが命を落とすことも、皆覚悟して生きている。
そんな世に舞い降りたこの女も、今ではそうして生きる俺を理解している。そんなものを、知らずに居ればどれだけ幸せだったか。
ーまさに、乱世にそぐわぬ花が咲いたようだ。
そっと、胡座をかく俺の膝に迦羅の手が優しく置かれた。
「信長様にそんな顔をされては、居心地が悪くなります」
少し困ったような笑顔でそう告げる。
「そんなにひどい顔をしているか?」
「ええ、それはもうひどいお顔ですよ」
くすくすと笑う迦羅につられて、口元がほころんだ。
いつものように迦羅の膝枕で横になる。
本当にこの女はすべてが温かい。
硬く冷えた心でさえも、自然と溶かしてしまう。
この乱世を知らねば良かったと思ったが、そうでなければ俺がこの女に出逢うことが出来なかった。天の悪戯であろうとも、感謝してやらねばならんな。
「迦羅、愛している」
不意をついた言葉に照れたように微笑みながらも
「私も、愛しています、信長様…」
俺の気持ちに応えるように、素直に愛を囁く。
幸せとはこのようなものだと、この女が教えてくれたのだ。