第17章 絡まる絲(真田幸村/甘め)
陽が落ちた頃、広間には春日山城の面々が集まり、迦羅を歓迎する宴が始まった。とは言え、皆好き好きに呑んで食って騒いでるだけなんだけどな。
迦羅は俺の横で酌をしている。
今日からは当たり前のように隣に居られると思うと、改めて幸せっつーか、温かいものが胸に沁みた。
「これからはずっと、こうして居られるんだね」
酒で少し赤くなった顔で、迦羅が俺へ視線を向ける。
「俺も、同じこと考えてた」
「ふふ、嬉しい」
照れたように笑う迦羅が可愛くて、無意識に髪を撫でると、猫みたいにうっとりと目を細めている。
本当、可愛いやつ。
「迦羅、こっちへ来い」
「おいで姫。酌をしてくれないか?」
向こうから謙信様と信玄様が呼んでる。ったく、少しは気遣えっての。
「幸村、ちょっと行ってくるね」
お世話になる人たちだからと立ち上がる迦羅に念のために言っておく。
「あんまり隙見せんなよ」
呼ばれた迦羅は、謙信様と信玄様の間に座らせられた。
酌をしながら談笑している。触れられてはいない。
ー余計な心配だったか。
そこへ佐助が徳利を数本持って来た。
「今日は呑もう」
珍しく呑む気満々だ。すでに謙信様に呑まされてきたようで、顔には出てないが酔っ払いの匂いがする。
「幸村。頼んだよ、迦羅さんのこと」
「お前に言われなくたって」
「周りには猛獣が居るからね。気を付けて」
そう言って佐助は上座を指差す。
迦羅の酌を受けながら、謙信様は柔らかな微笑みで迦羅の顔を眺めている。
見られている迦羅本人は気付いてないようだけど…
やはりあれは、好いているってことだよな?
「佐助、万が一のことがあれば俺は…」
「勿論わかってるさ」
強く頷く佐助に安心を覚える。迦羅がそう簡単に他の男になびくとは思ってねーし、俺を好きだって言葉にも疑いはねーけど、やっぱり…不安になるんだな。
「俺に任せて」
言ったそばから佐助は上座で呑む三人の元へ行き、腰を下ろす。
「畏れながら申し上げます謙信様」
「何の口上だ?」
「今こうして謙信様が迦羅さんを独占しているところ申し訳ないのですが、そろそろ幸村がやきもちを妬く頃合いになりましたので」
良く通るハッキリとした声が響き、広間が静まり返った。