第5章 暗黙のルール(マルコ)
「アセトアルデヒドの濃度が異常だったの…血液中のアルコール濃度が異常に高くて、下手したら死んでたかも知れないわ」
所謂、急性アルコール中毒と言うやつだ。
昏酔状態でもおかしくない、今起きてるのが不思議なくらいだったらしい。だから二日酔いも尋常じゃないくらいに酷いのだとか。
酷いと分かっていたなら、あのマシンガントークは止めてやればいいものを。白ひげのナースは中々に鬼畜だ。
色々な事象に呆然とするマルコとサッチをよそに、ナースは確認する様に言葉を続けた。
「…本当に、無理矢理飲ましたんじゃないんでしょうね?」
「飲ましてねェが……あいつ、一週間飯食ってなかったらしいんだよい」
「…! それよそれ! 一週間も何も食べてない状態でお酒なんか入れたらそりゃアルコールの吸収もよくなるわよ、もぉバカじゃないの」
悩ましげに頭を押さえながらナースは肩を竦めた。そして溜息をひとつ吐くと、ずいっとマルコに顔を近付けた。
「そもそも一週間も何も食べてないってどう言う事? 前にちゃんと忠告したはずよ、あの子は物事に無頓着過ぎるから気を付けて見ててって、まさか忘れてた訳じゃないでしょう?」
「……悪かった、今回はちょっと立て込んでたから──」
「言い訳はいらないわ」
「…これからは気を付けるよい」
目尻を吊り上げ怒るナースにマルコはバツが悪そうに頭を掻いた。
流石、白ひげ海賊団のナース。
仮にも白ひげの二番手とも言われるマルコを相手に、物怖じしないどころか黙らしてしまうとは。普段から親父の相手をしているだけあって肝が座っている。
二人のやり取りを見ていたサッチだったが、不意にナースと目が合った。鋭い目付きで腕を組むナースに思わず背筋が伸びる。
「貴方もよサッチ、コックであるならクルーの食事管理はしっかりして頂戴」
まさかの飛び火。
だがナースのド正論にぐうの音も出ない。勿論初めの内はユナを気に掛けて飯を持って行っていたが、ユナが船に馴染み始めてからはしなくなった。
偶に食堂で見かけない日が続いても、どうせどっかで食べてるだろうと高を括ってたのは事実だ。実際マルコと飲んでる日もあったわけで……だがナースの言う通り、コックである以上クルーの食事管理は疎かにしてはいけない。命を預かっているのと同等なのだから。