第5章 暗黙のルール(マルコ)
モビー号では日頃から二日酔いの連中は少なくない、宴のあった翌日には医務室は二日酔い患者で一杯になる事もある。お酒を控えるよう再三言ってもクルーは聞く耳を持たないのだ、そんな日頃の事もありナースは此処ぞとばかりに小言を言った。
その結果ユナが両耳を塞ぎ、蹲ることとなったのだが、ナースはそんな事お構い無しにマシンガントークをする、しかも気のせいか何時もより声が通っているような気がした。
「自業自得でしょ。はいこれ、二日酔いのお薬ね」
机に水と薬を用意したナースはまた何かあれば呼んでねと笑顔で言うと、マルコとサッチを連れて部屋から立ち去って行ってしまった。
一人残されたユナはやっとマシンガントークから解放されて安堵の息を吐く。
頭がガンガンする…少しでも音を立てようものなら頭蓋骨を直接金槌で叩かれた様な酷い衝撃が襲って来た。
流石に頭蓋骨を叩かれるなんて経験無いが、例えるならそれくらい酷い頭痛だった。
蹲っていたユナは渾身の力を振り絞って薬を手に取り口に含んだ、それを水で押し流せば少しだけ胃がスッとした。
はぁ…如何してこんな事になったんだろ…。
原因を考えようにも今の状態の脳では何も考えられず、ユナは思考を放棄するとそのままベッドに沈んだのだった。
起きてマシになってたらみんなの手伝いに行こう、そんな事を頭の片隅で考えながら……。
──……
「ちょっと二人に聞きたいんだけど」
ユナの部屋から離れた所で、怒気を含んだナースの物言いにマルコとサッチは無言で続きを促した。
「あの子の二日酔い異常なんだけど、どんだけ強いお酒飲ましたのよ」
「…飲んだのは普通の酒だよい」
「普通のお酒を大量に飲ましたわけ?」
「いや2杯程度だよい」
「そんな訳ないでしょ、冗談は髪型だけにして頂戴」
ブフッと隣から笑い声が聞こえた。
一瞬殺気を飛ばせばサッチは態とらしく咳払いをする。
「ところで異常ってどーいう事なんだ?」
マルコの視線を躱すようにサッチがナースに尋ねれば、ナースは眉間にシワを寄せた。