第5章 暗黙のルール(マルコ)
どんどん近付くユナの顔にどうするべきか対処に悩む、だがそれ以前に目が逸らせなかった。
ユナの真っ直ぐな瞳が、吸い込まれる様なセラフィナイトの瞳が、逸らす事を許さない。
目を奪われる──まさにそんな状態だった。
そうこうしてる間にユナの顔はもう目と鼻の先まで近付いていた…思わず鼓動が高鳴る──。
「ユナまっ──」
思わず仰け反るマルコだったが──
──ポスっ。
「……は?」
あと数センチで顔が触れるかと言うところでユナはマルコの肩へと倒れ込んだ。
「おいユナ…」
マルコが肩を掴んで剥がせばユナは静かに寝息を立てていた。
「………マジかよい」
緊張が解けマルコは長い溜息を吐いた──高鳴った鼓動を何とか落ち着かせる。
何だったんだ今のは…。
こいつは酔うと子供返りするだけじゃなかったのかよい…これも酒のせいなら悪酔いもいいとこだ、いろんな意味で心臓に悪過ぎる。
マルコはもう一度長い溜息を吐いた。
取りあえずこのままいる訳にもいかず、マルコはユナを横抱きにすると扉の方を振り向いた。
「そこにいるんだろ…出て来いよい」
そう呼び掛ければ静まり返った食堂にギィと木の軋む音が響いた。
「…はは、まさかマルコと姫さんがデキてるとは思わなかったぜ」
「冗談はよせサッチ、見てたんだろ…こいつは酔ってるだけだよい」
扉から現れたのはリーゼントが良く似合う男、サッチだった。
偶々食堂の前を通ったサッチは、マルコとユナが飲んでいるのが見えて様子を伺っていたらしい。
あば良くば自分も参加しようと思っていたらしいがどうもタイミングを逃し今に至ると言う。
「しっかしさっきの姫さんにはビックリしたな……あんな姫さんは初めて見たぜ」
気持ち良さそうに眠るユナの寝顔は何時もよりあどけなく見え、先程の妖艶さが嘘の様だった。