第5章 暗黙のルール(マルコ)
にひひと笑いながらユナは残っていた酒を一気に飲み干す。
まるで聞き分けのない子供同然のユナの態度にマルコは片手で顔を覆った、そんなに強い酒じゃねェのに今日は何時もより酔うスピードが早い気がする。
『マルコ、おさけ』
「…もうやめとけ」
『やだぁまだのむのぉ』
マルコの横にある一升瓶を取るべくユナはカウンターに身を乗り出し手を伸ばす、だがそれはマルコによって阻止された。
『ちょっとくらいいいじゃないっ、マルコのけちー』
「何とでも言え、酒は終わりだ」
『けち〜、いじわる〜、マルコのばかぁ』
「よいよい」
ジタバタ暴れるユナを片手で押さえ込み、マルコは一人残りの酒を飲み干す。その間もユナの暴言は続いたが所詮は子供の戯言だとマルコは聞き流した。
『……ぱいなっぷるはげ』
だが最後にボソリと呟いたユナにマルコの眉がピクリと反応した、無言で睨むマルコにユナは素知らぬ顔をする。
酒も無くなり暴れるのをやめればマルコの拘束は弱まった、ユナはスルリと抜けるとマルコと向き合う形でカウンターに腰掛けた。
暴れたせいではだけていたシャツが更にずり落ち、ユナの左肩が露わになっているが本人は気にせずマルコを見詰める。
無言で見詰めるユナを少し不審に思いマルコは眉を寄せた。静寂が二人を支配する、先に口を開いたのはユナだった。
『ふっ……そー怖い顔しないでよ』
一瞬にして空気が変わった…酒で紅潮した頬に血色の良くなった唇、挑発する様な瞳で笑うユナに不覚にも見惚れてしまう。
『ねぇマルコ……私──』
マルコの頬に手を添えたユナはゆっくりと顔を近付けて行く。
先程までとは別人の様な妖艶な雰囲気のユナにマルコは戸惑った。
「……っ」