第5章 暗黙のルール(マルコ)
──ユナが唯一素直になる瞬間、それは酒を飲んだ時だ。
どうやらユナは酔うと童心に返るようで、子供みたいな口調になり自分の気持ちにも割と素直になる。
たまに素直過ぎて駄々をこねる事もあるが、それはそれで可愛いと専らの評判だ。
何の因果か普段子供扱いされる事を嫌うユナが酔うと子供返りする。
本人が知れば酒を飲むのを止めるだろう…だがユナは今も自分が酒酔いする事を知らない、その理由は酔ってる間の事は一切覚えていないからだ。
他の奴等も態々本人に教えはしない。何時も甘えないユナが唯一甘えられる手段なのだから…最も大半の奴等は面白がって言わないだけなのだが。
と言うか普段も少しは甘えればいいものを…他のクルーなんて事ある毎に我儘を言うというのに、どうやらこいつは人に甘えるのが苦手らしい。
マルコは目を細めるとユナの頭を優しく撫でた。いじける子供をあやすようにマルコは言い聞かせる。
「そんな事ねェだろい、今日だって他の隊の手伝いしてたって聞いたぞ…ちゃんと役に立ってンじゃねェか」
『……それはあたりまえ…”いそうろう”してるんだから、てつだうのはあたりまえなの』
「…だったら何が不満なんだよい」
『………せんとう』
「は? 戦闘?」
ユナの言葉の意味が分からずマルコは首を傾げる。
話を聞けばどうやらユナは戦闘にいつも参加出来てない事を気に病んでいたらしい。
たまにある敵との交戦。四皇の一人、白ひげの海賊団ともなれば絡まれる事はそう少なくは無い…だがユナが今迄にその戦闘に参加した事は一度も無いのだ。
──ユナがこの船に乗る時、親父から一つの命令が言い渡された。
それはユナを”戦闘には参加させるな”と言う事だった。