第5章 暗黙のルール(マルコ)
『ありがと…そーいやマルコとはなすのはひさしぶりね』
「ここンとこ立て込んでたからな…まァあとは愚痴を聞くくらいだよい」
『…? そんなこともやってるの? たいへんね』
こてんと首を傾げるユナにマルコはフッと笑う。
「そうでもねェよい」
『…?』
ゴクゴクと喉を鳴らしマルコは酒を飲み干す。
「そーいやそろそろ一年経つが…ちったァこの船に慣れたかよい?」
『…うん、もうまよわないし…みんなにもよくしてもらってるよ』
「そうか、そりゃ良かったよい……お前始めは酷かったもんなァ」
『う"……それは…はんせいしてるもん』
「別に責めちゃいねェよい、始めはどうであれ今は仲良くやってンだからいいじゃねェか」
『………ない』
ボソリと言ったユナの言葉が聞き取れず、マルコは聞き返すがそれ以上ユナが何かを言う事はなかった。
腕を枕にしユナはカウンターに突っ伏する。それを横目で見ながらマルコは一升瓶を手に取ると自身のジョッキに酒を注ぎ足した、コポコポコポと水の音だけが食堂に響く。
──この一年でユナに対して分かった事がある。
ユナは決して弱音や悩みを言わない、だが悩みがあると必ずと言っていいほど夜風にあたりに行く。だから今回も何か思い悩んでいるんだろうと飲みに誘った訳だが…。
単刀直入で聞いたところでユナが答える事はまず無い。
けどそんなユナが唯一素直になる時があるのだ、それが──
『…よくないよ』
ユナが口を開く。
カウンターに突っ伏するユナはそっぽを向いてる為、その表情は分からないが声は曇っていた。
「何がよくねェんだよい」
優しい口調のマルコにユナは暫しの沈黙の後再び口を開いた。
『……だって…だってみんなわたしによくしてくれてるのに……わたしはみんなの、やくにたててないもん…』
あァなんだ…そんな事か。