第5章 暗黙のルール(マルコ)
「何で食わねェんだよい?」
『何でって言われても…忘れるから?』
「忘れるって…腹減るだろうがよい」
どっかで研究員や科学者なら研究に没頭して食事を忘れるとは聞いた事があるが、ユナは科学者でもましてや何かの研究をしている訳でもない。
一日何も食べなければ腹も減る筈だ。
『んー、お腹が減る感覚が無いのよね』
「…は?」
酒に口を付けようとしていたマルコはユナの言葉に耳を疑った。思わずユナの方を振り向けば当の本人はタルトを食べ終わり、酒に口を付けていた。
「今迄一度も腹が減った事がねェって事かよい?」
『まぁ…そうね』
「マジかよい…」
一体全体どういう事なのか、空腹の感覚がねェってあり得るのかよい?
仮にもし感覚がないとしても流石にずっと食べないままじゃ体が保たない筈だ。
マルコが知る限りではユナは三日間何も食べなかった時がある。
そこでマルコはふと思う。
「……もしかして暫く食ってなかったのか?」
『んー? そー言えば食べるの久々かも』
「…因みにいつ振りだよい?」
マルコの言葉にユナは暫し考え込む。
その姿にマルコは嫌な予感がした。
『……一週間?』
お酒を飲み干し首をこてんと傾けユナは言う。
まさかの答えにマルコは言葉が出なかった。
一週間? 一週間何も食べてないのかよい?
幾ら何でもそれは異常だろい…
呆気に取られるマルコを余所にユナはついついとマルコの袖を引っ張る。呆けていたマルコは意識を引き戻すとユナに視線を戻した。
『マルコ、おかわりちょーだい』
空になったジョッキを差し出すユナにマルコは当初の目的を思い出した。
ユナの衝撃告白に気を取られていたが一先ずそれは横に置いておこう、後でユナをナースに診せるとして。
マルコは言われるままにユナのジョッキに酒を注いだ。