第5章 暗黙のルール(マルコ)
目の前に置かれたデザートをユナは見詰める、桃をふんだんに使い生クリームをトッピングしたタルトはシンプルだが美味しそうだった。
『あれ、マルコは食べないの?』
「あァおれはいいよい」
たまにこうしてマルコと飲む事があるが、そういやマルコは何時も飲むだけで肴はあまり食べてなかったな…最もお酒にタルトは合わないか。
『じゃ遠慮無く』
ユナは頂きますと手を合わせるとタルトを一口口に運んだ。
『あ、これ中が桃のムースなんだ…美味しい』
モグモグとタルトを頬張るユナを横目にマルコはジョッキに酒を注ぐ。
”今日も姫さん食堂に来なかったからまた一杯するなら宜しくマルコ隊長”
冷蔵庫を漁って見つけたタルトに添えられていたメモ、直ぐにサッチだと分かった。
”姫”と言うのは所謂ユナの事で、ナース以外でこの船に乗っている女はユナだけだ、だからみんな面白半分で姫と呼ぶ。
コックでもあるサッチはユナが食堂に来てない時はよくこうしてデザートを作って置いている。おれがキッチンに無断で入ってる事も、ユナとたまに飲んでる事もサッチにはバレバレだ。
まァ知られて困る事でもねェし、別にいいんだが……飲むの分かってんならデザートより肴の方がいいんじゃねェか、ご飯を食べてねェなら尚更。
そんな突っ込みもするがユナは特に気にしてないようで、美味しそうにタルトを頬張るユナを見てどうでもいいかと結論付けた。
にしても…
「ユナ、今日飯食ってねェのかよい?」
『んー、そー言えば食べてないわね』
しれっと答えるユナにまたかとマルコは頭を抱えた。
意図的なのか何なのか、ユナがご飯を食べないのはよくある事で、ダイエットでもしているのかとも考えたがこんな時間に高カロリーのタルトを食べているのを考えるとその線は無いだろう。
それ以前に今のユナの体型でダイエットをする必要はない。