第5章 暗黙のルール(マルコ)
程なくして二人がやって来たのは食堂だった。
賑やかな昼間とは違い真夜中の食堂はシーンと静まり返っている。ユナがカウンター席に腰を下ろすとマルコは「何か摘んでくるよい」とキッチンへと姿を消した。
普段、食糧は貴重だからとコックの許可無しにキッチンに入る事は禁止すると口煩く言ってる張本人なのに、アッサリ入ってしまう所はマルコらしいと言うかなんと言うか。
一人になったユナはぼんやりと食堂を見渡した。
ここに来て一年近く、長い様で短かったこの一年…あの時エドに出逢わなければ私は今ここにはいなかった…出逢わなければ私は今もきっと一人だった。
──初めは迷いまくったモビー・ディック号の船内も、今では迷う事なく自分の庭の様に歩いている。
初対面から喧嘩の耐えなかった人達とも今ではふざけ合うほど仲良くなって…自分でも分かる程愛想の無かった私を受け入れてくれた白ひげのみんなには感謝しかない。
それなのに──
「ユナ、丁度デザートがあったよい」
物思いに耽っていたユナはマルコの声で現実へと引き戻された。
目を向ければ片手に一升瓶のお酒を持ち、もう片方でデザートが乗ったお皿とジョッキ二つを器用に持ったマルコがそこにはいた。
『…何時もデザートあるけど勝手に食べていいの?』
「なァに気にするな、試作だから感想くれって書いてあったよい」
『書いてあったって…それマルコ宛じゃないでしょ』
コックの許可無しに入れないキッチンにマルコ宛があるのは可笑しい。
「まァ細かい事は気にするなよい」
ほらとマルコはジョッキとデザートをテーブルに置くと、自身もユナの隣へと腰掛けた。