第2章 短編 節分の日(※書き出し)
「…15番?」
ハッと顔を上げると、少し離れたところにハジメがいた
「あいつならともかく、なんでお前が居るんだ15番…いや、イチゴ
…どうかしたのか?」
あいつとは、きっとジューゴのことだろう
彼の少ない記憶の中でもよくよく暇つぶしに脱獄をしていたようだから
ハジメの、いつもはつり上がっている目が、心底不思議だというように驚きもにじみつつ顰められている
彼は優しかった、舎房を勝手に抜け出したということはすなわち脱獄である
だというのに、脱獄を指摘するでもなく怒るわけでもなく、優しくも焦ったように駆け寄ってくれる
「!イチゴ…?」
正直怖かった
あのまま暗い考えを続けていたら、きっと本当に闇にのまれていたかもしれない
さっきよりもずっと近くなったハジメに思わず抱きついた
ふらついたが、彼はさも当然のように俺を抱えなおしてくれた
ふわりとかおる優しいにおい、こっちの黒はとても安心できた
途端に、さっきまでの凍りついた心が溶けていくように、涙が出てきた
「っわ、おい、泣くな!どっかいてえのか?」
ちがう、ちがうの
全部俺が悪いんだ
ジューゴがいなくなったのも、俺が代わりにここにいるのも
全部俺が悪いように思えてくる
あの闇にのみこまれる寸前、
消えてしまいたいと、思った
ハジメが来てくれて助けてくれた、もう自分は泣くのを止められなかった
泣き止まない俺を抱えて、あやしながら何処かへ向かうハジメ
着いたのは看守室
ソファに俺を抱えたまま座るハジメ
だいぶ落ち着いたが、一度決壊した涙のダムはまだ止まる様子はない
そろそろ疲れてきて、ふらついたらまたハジメの手で抱えてくれて、よりかかってしまった
ハジメの心臓の音がする
あったかくて、安心する
「…何があったか知らんが、あんま抱え込みすぎんなよ」
そのまま頭をなでてくれて、俺は頷いた
その後のことは覚えてない
ただわかるのはずっとハジメが俺をなでてくれてたこと