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【YOI・男主】愚者の贈り物

第2章 第1日目・SP滑走順抽選会


そうしている内にひと通りの取材が済んだのか、勇利の周りから人が去っていくのを見計らって、諸岡は純を連れて彼へと歩を進めた。

「…ははーん。諸岡さんが僕に声かけたのは、最初からコレが目的やったんか」
「やだな、誤解だよ。そりゃ、勝生くんは勿論だけど僕は君がここに戻って来てくれた事も嬉しいんだから」
「まあ、ええわ。おいしい映像をお茶の間に流して数字取るのが、TV屋さんらのお仕事やもんなあ。これがフィギュア人気にも繋がるなら、僕も協力するんにやぶさかやないで」

口では言いながらも、自分の役割やマスコミ側が何を望んでいるかを熟知しており、肝心な所は交わしてくるがそれ以外は自分のマイナスにならない範囲でこちらに協力的な態度を見せる純は、諸岡にとってある意味勇利より扱い易い人物である。
ほんの少しだけ疚しさを抱えつつ、諸岡は改めてカメラマンと共に勇利の前に立った。

「やあ、勝生くん!」
「諸岡さん。…純くんも」
「何や、諸岡さんが僕と勇利くんの画ぇを録りたいんやて。でも、普通の人が見たら『誰あの勝生勇利と馴れ馴れしくしてるヤツ』やから、勇利くんが嫌なら僕は引っ込むから安心し。まあ、僕らが一緒におっても画にならんて判ったら、ばっさりカットでオンエアされへんだけや」
「そんな事言わないでよ。上林くんが西日本大会に出てた時から、密かにフィギュアファンの間でも噂になってたんだよ?」
「えー?僕、そんなん聞いた事ないで?第一あの頃は、勇利くんのGPSで大フィーバーやったやん。諸岡さんも現地でつきっきりやったしな。TVで観てたで♪」
「またそういうイケズを言うんだから~」

参ったなあ、という顔をする諸岡を他所に、純は勇利に近づくと小声で囁いた。
「諸岡さんは君が調子ええ時悪い時関係なく、ずっと応援してくれはった人やろ。僕の事はどうでもええから、彼にだけは最低限の礼儀と仁義は果たしとき」
「純くん…」

自分より僅かに背の高い純のやや垂れ気味の瞳を見据えながら、勇利はふと脳裏にある記憶が浮かんでくるのを覚えた。
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