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【YOI・男主】愚者の贈り物

第2章 第1日目・SP滑走順抽選会


シニアデビューした年のある試合会場で、親子連れの観客から握手を求められた勇利は、母親に促された子供の手をぎこちなく取ろうとした時、一緒にいた純から耳打ちされたのだった。

『上から目線はあかん。ちゃんとその子の高さに合わせたり』

子供と同じ目線まで腰を落とした純を見た勇利は、自分もまた慌てて上体を屈めると、嬉しそうに笑う子供に口元を微妙に引きつらせながらその小さな手を軽く握り返したのだった。
代々続く老舗の末っ子で幼い頃から京都の中心部で育った純は、物の道理や礼儀に反する事を何よりも嫌う人間だった。
「どこで誰が自分の事を見ているか判らないような町で育ったから」というのが純の言い分だったが、人見知りどころか外部を遮断する勢いで自分の世界にこもりがちな勇利にとって、純は同い年でありながら全く異質の存在にも思えたのである。
(今頃になって、思い出すなんて…)
言い知れぬ自己嫌悪のようなものを覚えた勇利は、純に一緒にいて欲しいと返事をすると、諸岡に承諾の意を表すように首肯する。
諸岡は嬉しそうな表情を隠せずに、カメラマンに合図を出すといつものテンションでインタビューを開始した。

「さあ、今年の全日本選手権は、会場の場所も手伝ってまさに『大阪冬の陣』!男子シングルの注目は、勿論先日のGPFで銀メダルに輝いた我らが勝生勇利選手!ですが…なんと今回は、京都出身のスケーター上林純選手が約2シーズンぶりに全日本に登場です!フィギュアファンならかつてこの2人がしのぎを削り合っていた事を憶えているのではないでしょうか?」
「それ『相当コアなファン』レベルと違いますか?せいぜい、日本で3人おったらええ位の」
「いくら何でもそんな訳ないよ!」
「あ!早速お2人によるボケとツッコミ、有難うございました!上林選手は見事、あの大怪我から奇跡の復活を果たされましたね」
「……お陰さんで。えらい時間かかりましたけど、どうにか全日本の氷の上に戻ってくる事だけはできましたわ」
「勝生選手は、ヴィクトルコーチのいない中での全日本参戦となりますが、意気込みのほどは?」
「ヴィクトル…コーチからは、様々な面で自己管理を言われているので、その課題と共にどんな状況でも最高のパフォーマンスができるよう頑張りたいと思います」
「やはり、そこは『愛』の力で♪」
「はい」
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