第2章 第1日目・SP滑走順抽選会
抽選会終了後、勇利達が会場を出てくるのを待ち受けていたかのように、TV局をはじめその他マスコミの記者達が押し寄せてきた。
「勝生選手、明日のSPへの意気込みをひと言お願いします!」
「GPFの後で競技復帰を表明したヴィクトルコーチが不在の今、何か不安はありませんか?」
「昨年の失態の挽回を…」
時折フィンランド人の母親と「青い瞳のサムライボーイ」のあだ名を持つ14歳のジュニア選手へコメントを求めている者もいたが、取材の矛先は大半が勇利で南と純は逆に「君達、邪魔だからどいて」と押しのけられそうにまでなっていた。
「ちょ、言われんでも退きますけん、押さんで下さい!ああ、勇利く~ん!」
「僕も健坊も、他の選手も試合控えとるんやから、乱暴な真似はやめて欲しいなあ」
変わらずの態度でいる純と憤然とする南が、少し離れた場所で勇利の取材が終わるのを待っていると、ひとりの人物が2人の傍へと近付いてきた。
「ねえ、君」
「はい?あ、勝生選手やったらあっちにいてますよ」
「いや、君に用があるんだ。上林純くん」
名前を呼ばれた純は、暫しその記者を観察した後で彼が昔から勇利を追いかけていた諸岡という東京キー局のアナウンサーである事を思い出した。
「確か諸岡さんやったな。こっちの系列局に任せんと、わざわざ東京から来はったんですか?」
「そりゃ、こんな素晴らしい夢の対決を東京で指くわえて見てなんていられないよ。まずは、約2シーズンぶりの公式戦復帰おめでとう」
「はあ…まあ、めでたいいうより『年寄りの冷や水』の方が近いですけど」
諸岡の切り出しに、純は苦笑しながら応える。
「怪我の後は、あの破天荒で有名な藤枝(ふじえだ)コーチの下で、基礎からスケートをやり直したという話も聞いてますが」
「──あんなん『ヒゲ』でええわ」
「え?」
「いえ、別に。実は藤枝コーチにお願いする前に、昔お世話になってたセンセや何人かのコーチにも声をかけさせて貰うたんですが、怪我の一件でいっとき色んなモンから逃げ出しとった僕が信用できひんかったのか、あと他の若い選手達の指導が忙しいのもあって、みんな断られてしもうたんです」
穏やかな表情と声音で話す純の言葉の端々に何やらチクチクしたものを感じながら、諸岡は質問を続けた。