第9章 最終日EX・愚者の贈り物
「あ、宮永さんや!」
現れた人物の名前を呼びながら、復活した南が瞳を輝かせた。
元アイスダンスの選手にして、現在では数々のメダリストをはじめ国内外のスケーター達の振付を手がける宮永の登場に、純は内心の動揺を懸命に抑え込む。
「俺と藤枝くんは、ほぼ同期でね。種目は違ったけどお互い波長が合ったみたいで、今でも俺が帰国の時には飲みに行ったりしてるんだよ」
「そうやったんですか」
「上林くんがスケートを再開した頃から、俺はずっと君の話を藤枝くんから聞いていた。彼がここまで生徒に執着するなんて、珍しい事もあるんだなって思ってたけど、大会での君の演技とさっきのEXで良く理解したよ。藤枝くんは、君の才能を手放したくなかったんだね」
「あ、君自身もかな?」と付け加えられて、純と藤枝は狼狽えた。
「ンなのは今は関係ないだろ、宮永さん!で、どうですか?」
「藤枝くんも人が悪いなあ。彼の事は一番判ってるくせに♪多少荒削りな所はあったけど、充分合格点だよ」
「あの、さっきから話が見ぇへんのですけど」
訳が判らないといった顔をする純を見て、藤枝がじれったいとばかりに肩を抱き寄せてきた。
「もう、腹は決まってんだろ。俺が何でお前に宮永さん会わせたのか、よく考えてみろ」
「え?え…あの、」
「藤枝くんから聞いてないのかい?今後俺が君へ、振付師の指導をするって話」
「は!?」
突拍子もない宮永の言葉に、純は取り繕う間もなく無防備な声を上げた。
「最も俺は1年の大半は外国暮らしだから、定期的なレッスンは無理だけど、俺の帰国時やネット経由な形でも良ければ、喜んで引き受けるよ。君の才能は、ここで終わらせては勿体ない」
そう宮永に告げられた純は、戸惑いを隠せない顔で下を向く。
「…どうした?」
どこか様子のおかしな純に、藤枝は彼の肩に置いた手に力を込める。
「これまでずっと…スケートは全日本でお終いやって思うてたから…僕は、それだけの為にこの1年余りを過ごしてきたから、やり切って終わらせな、て」
「純…」
「せやけど勇利達に会って、現役最後の大会でええ演技が出来て、自分の正直な気持ちを確かめる事が出来た。…貴方との事も」
そう言って顔を上げた純は、穏やかな微笑みを藤枝に向けた。