第9章 最終日EX・愚者の贈り物
「最近、チラホラ新しい依頼来とるらしいやないか。何で断っとんの?」
「あ?お前の成績に便乗狙うけど、ちょっと言っただけですぐへこむような根性のない奴に用はねーからだよ」
「ヒゲは、率直過ぎて口下手なトコがあかんのや。ここ数年一緒におって、それがよう判った。貴方みたいなタイプのコーチと生徒の間には、緩衝材のような中継役が必要や。せやから、今後は僕が助手として一緒におる」
「おま、宮永さんの所で振付師の修行すんじゃねえのかよ?」
「宮永さんも言うとったけど、殆ど仕事で日本にいてはれへんのやから、ええやないか。それとも…僕にあんな真似しておいて、今更放り出すとか言わへんよな?」
「おい…!」
上目遣いに睨まれて、藤枝は柄にもなく慌てた。
「僕は、興味本位やお情けで男に抱かれたりなんかせえへん。僕をここまで連れて来てくれた貴方を…自分が惚れた男の功績を、ただのまぐれやなんて誰にも言わせへんから」
「純、お前自分が何言ってるのか判ってんのか!?」
「貴方の思惑通り、これからもスケートは辞めへんのやから、ええやろ?…京女程やないけど、都の男も結構しつこいで」
人目も憚らず腕を絡ませてきた純に、藤枝は今度こそ苦虫を噛み潰したような顔で、しかし純の身体は離さずに支えていた。
そんな藤枝に満足そうに頷いた純は、ひとしきり愛しい男の温もりを堪能した後で身体を離すと、宮永の前に立ち頭を下げた。
「よろしゅうお願いします。どうか、1から勉強させて下さい」
「ああ、こちらこそよろしく」
「ついこの間までは、競技と一緒に全部お終いや思うてたけど、実はこれまでの事は、皆今後の為の糧やったとしたら…僕のスケート人生、まだまだこれからみたいやな」
照れ臭そうに頬を掻く純に、勇利達も顔を綻ばせた。
「おめでとう!これで正式に、振付師上林純の誕生だね!」
「おいも、いつか純くんの振付で踊ってみたかとです!今回の純くんの競技プロも、勇利くんとのコラボもばり美しかったけん、来シーズンとか是非!」
「待って下さい。いきなりシニアの振付というのは、ハードだと思います。僕は来季もジュニアにいますから、まずは僕のプログラムから…」
「あ!抜け駆けはこすいて、アレクくん!」