第9章 最終日EX・愚者の贈り物
(たかだか1年足らず一緒におっただけで、勝生勇利の全てを知ったと勘違いせん事やな。流石のあんたも、和プロは盲点やったやろ?そして今、勇利からそれを引き出したんはあんたやない。この僕や…!)
独自の解釈を織り交ぜながら氷上で舞い続ける勇利に、純は口角をつり上げる。
(この男のポテンシャルは、ほんまに計り知れへんで。これからも勇利と共に歩み、闘い続ける覚悟があるなら、肝に銘じておくんやな。…刮目しい)
(これが、勝生勇利の)
((新しい舞や…!))
いつしかリンクの内と外で同じ想いを抱いていた勇利と純は、周囲からの驚愕と感動に得も言われぬ喜びと興奮を覚えていた。
「……本当に酷い男だよね。何処まで俺に隠し事したら気が済むの?」
スマホの向こうで観た事のない舞を舞う勇利の姿に、男は蒼い瞳を鈍く光らせた。
「まだまだ俺の知らないお前がいるって事?俺、コーチなんだからちゃんと見せてくれなきゃ。といっても、このジャンルは専門外だから仕方ないんだけど、ここまであからさまに見せつけられるのは、気に食わない……」
そう低い声で呟きながら、男の指がスマホ越しに、観客からのアンコールに応えた後で、勇利がリンクに連れて来た純に触れる。
「俺だったら…あの黒い手をお前の衣装の合わせに潜り込ませて、全部さらけ出してやりたいね」
直後、男の親指がスマホの液晶の上に貼られた強化ガラスフィルムにヒビを入れたが、隣で自分のスマホに夢中になっていたユーリ・プリセツキーは、そんな男の様子には気付けずにいた。
「感無量やったわ。あと、好評貰えてホッとしとる。有難う勇利」
「うん、僕も楽しかったよ!」
「ううぅ、まさに勇利くんと純くんの、夢のコラボやったけん。た、たまら…」
「南さん、しっかり!」
恍惚とした表情のまま卒倒しそうになる南の小柄な身体を、彼よりは幾分か上背のある礼之が支えた。
「おー、お前らここにいたか。探したぞ」
すると、純達の前に藤枝が誰かを伴って現れた。
「ヒゲ。後ろにおるのは…って、貴方は!?」
「やあ、上林くんだったね。藤枝くんから話は聞いてたけど、中々面白いものを観させて貰ったよ」
同伴者の正体に気付いた純は、声を上げて驚愕した。