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【YOI・男主】愚者の贈り物

第9章 最終日EX・愚者の贈り物


「さあ、いよいよ最後の滑走者となりました。男子シングル金メダリスト、勝生勇利。演じるのは何とかつての同期にて、先日現役引退を発表した上林純の名プログラムです!上林純の振付により勝生勇利が踊る、今宵限りのクリスマス・スペシャルエキシビション!『SAYURI』よりメモリーズ・オブ・ア・ゲイシャ!」
それまで暗闇に包まれていたリンクにスポットが灯り、和風衣装の勇利が照らされると、観客からはどよめきと歓声が上がった。
最初から和傘を肩越しに持つ仕草だった純とは違い、勇利は目を伏せたまま、傘を横に差した状態で数度回転させると、音楽が始まってから頭上へと移動させた。
ゆっくりと目を開いた勇利の佇まいに、メイクも手伝ってまるで純の冷たさが乗り移ったかのような印象を与える。
やがて勇利はその和傘を片手に持ち替えると、ペアのデススパイラルのような形で緩やかに回りながら、ゆっくりと手放した。
(この和傘は、愛しい人を見立てたもの…)
「少しだけ名残惜しそうに手ぇ放して、視線を…そう!」
リンクサイドで見守りながら、純も勇利と共に頭の中でプログラムを反芻させる。
ほんの一瞬だけ名残惜しげに和傘に視線をやった勇利が、直後鋭利な目つきに変わったのを確認すると、力強く頷いた。

4Sから深いシットスピンで回る勇利の袖が、美しくはためく。
左手にのみ着けられた黒の手袋がその顔を撫ぜた時だけ、勇利の表情が僅かに揺らめいたが、直後それは何も着けていない右手により遮られたり、気丈を貫かんとする瞳によって隠された。
「なるほど。あの左手は、愛しい人を表現しているのですね」
「今回勝生選手は、上林くんと打ち合わせと練習を重ねたそうですが、上林くんの振付の美しさを継承しつつも、独自の解釈も盛り込まれた良いプログラムだと思います」
これまでにない勇利の新たな一面に、リンクの誰もが目を奪われてしまう。
(…どうせ観てるんやろ?ヴィクトル・ニキフォロフ。確かにあんたは天才や。実力はあるのに中々勝ちに恵まれへんかった勇利をあそこまでのスケーターに仕立て上げたのは、他でもないあんたの功績や。…けどな、)
氷上の勇利を見つめながら、純は心の中で言葉を続けた。
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