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【YOI・男主】愚者の贈り物

第9章 最終日EX・愚者の贈り物


「いやー、綺麗やわあ。僕があげた衣装もホンマによう似合うてるわ」
「そ、そうかな?自分では良く判らないけど」
「ここに健坊おらんで良かったなあ。勇利の大ファンなあの子が今の姿見たら、確実にキーゼルバッハ破裂しとったで」
現在リンクでEXの演技を披露している南を眺めながら、純は再度勇利に視線を移した。
「ちょっと恥ずかしいよ。純はこんなに塗ってなかったじゃないか」
「EXやからええねん。照明も暗いし、客席からはそんな判らへんから」
居心地悪そうに和傘を持っていない方の手で、勇利は己の頬に置くが、「あんまり触ったら、おしろい取れるからあかんえ」と純に止められる。

純はこれまで、状況から必要に迫られて自分の為だけにプログラムを作っていた。
だけど今は、元は自分のものとはいえはじめから他人の為に作ったプロを、自分以外の他人が踊る。
自分のスケート技術やセンスに自信がない訳ではないが、果たして本当に、自分の作ったプロは通用するのか?
自分は勝生勇利というスケーターを、貶めたりはしないだろうか…
「大丈夫だよ」
顔には出していないつもりだったが、純が内心で不安を抱えているのに気付いたのか、勇利が声をかけてきた。
「僕が純の『SAYURI』を踊りたい理由は、もう話したでしょ?」
「勇利…」
「任せて。純の振付師としてのデビューにも、花を添えてみせるから」
「…言うようになったやないか」
それまで無意識に引き結ばれていた口元を綻ばせた純は、勇利の肩を軽く叩いた。
大会スタッフから勇利を呼ぶ声を耳にした2人は、無意識に右手同士を握り合う。
「和の音楽は間の取り方が肝。これは、西洋人とは違う古来から日本人特有のDNAのなせる業や。拘り過ぎる必要はあれへんけど、気に留めてくれると嬉しい」
「うん」
「僕も、観客の1人として楽しませて貰うわ。勇利、『あんじょうおきばりやす』」
「……『へぇ、おおきに』」
いつもと違う立場でかつてのお約束を交わした後で、純はスタッフに誘導されてリンクへと移動する勇利を見送った。
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