第9章 最終日EX・愚者の贈り物
最終日に開催されるEXは、時期にちなんで「クリスマスEX」というあだ名で呼ばれていた。
上位入賞者とその他特別に招待・推薦された選手達で繰り広げられる夢の共演は、競技にはない魅力や時にはユーモアに溢れたものである。
今回、特別枠で招待された純は前半のラストに、そして勇利は後半のトリを務める事となった。
「苦節約10年…今夜こそホンマに好き放題やらせて貰うわ。僕はもう現役やないし、スケ連なんて怖くないで♪」
「だから、滅多な事言ったらダメだって!」
悪童のように笑う純を、勇利がハラハラしつつ諌めた。
午前中に行われたEXの練習で観た純のプロは、まさに彼が予告していた通り「今までやりたくても出来なかった事を、全て詰め込んだ」を体現したものだった。
クワドなど派手なジャンプこそなかったが、そんなのはまるで気にならない程の要素が、至る所に散りばめられていたのだ。
純を見ていると、スケートはジャンプだけではない事を改めて認識させられる。
勇利は、そんな彼に力を貸して貰える事をとても心強く思っていた。
「ねえ、純。長谷津のリンクでも一緒に滑ろう。優子ちゃん達も、純が来るの楽しみにしてるんだよ」
「優子ちゃんか!懐かしいなあ。あ、今は西郡夫人やったか」
「夫人、なんてガラじゃないけどな。お前の演技観て凄え感動した、って俺の所に連絡きてたぞ」
「ホンマに?有難う」
勇利の隣にいた西郡からそう言われて、純は照れ臭そうに微笑んだ。
「前半のトリを飾るのは、先日惜しまれつつも現役引退を発表した上林純!今宵踊るのは、何と伝説のロックスターの名曲!『Jumping Jack Flash』!」
ロックの音楽に乗って登場した純に、客席からどよめきと歓声が起こった。
そこにいた純は、これまでの和プロやクラシックプロ等で見せてきた姿とはまるで違うレザー調の黒ジャケットにダメージドボトムを身に纏っており、ヘアワックスでアップバングにした髪をかき上げながら、まるで踊るように滑り出したのだ。
物凄いスピードでリンクの端から端まで移動したかと思えば、やがてジャケットを脱いでTシャツとボトムという軽装になってからは、更に動きが激しくなっていった。