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【YOI・男主】愚者の贈り物

第8章 第4日目・女子FS開催中


夜。
リンクでは、女子の表彰式に続いて世界選手権と四大陸選手権代表選手の発表が、滞りなく行われていた。
最終日のEXに出場するとはいえ、昨日既に競技引退を発表した純は、藤枝の隣で傍観者に徹しながらリンクで誇らしく輝く勇利達の姿を眺めていたが、ふと背後から声をかけられて振り返ると、諸岡とは違う複数の記者達に囲まれた。
「上林選手、昨日のフリーであれだけの演技をしながら引退というのは?」
「へ?僕、昨日言いませんでしたっけ?諸岡さんに…」
「我々は聞いてませんよ!もっとちゃんと話して下さい!」
「大体全日本選手権は、ウチが放映権を持っているのに抜け駆けを…GPSじゃないのに越権行為もいい所だ!」
何でも諸岡のTV局の深夜のスポーツニュースでは、勇利と純の再会と別れに焦点を当てた映像が好評を得ていたという。

(僕の演技と得点だけに浮かれて、いらん質問ばっかしとった癖によう言うわ。僕の事をちゃんと見てくれはったのは、諸岡さんだけやったのに)
昨日の引退宣言の後、勇利と純を改めて売り出そうという浅慮に駆られていたマスコミを始め、一部スケート関係者からは悲鳴が上がったという。
「何処にいても教え子の活躍は喜ばしい」という言葉があるが、どうもそれ以外の不純な動機で自分に近付いてきたかつてのコーチ達の愛想笑いを、内心冷ややかに返していた純の前に、諸岡だけは「本当にお疲れ様でした」と、全てを悟ったような眼差しで現れた。
だから、自然とあの引退宣言が口から出たのだ。
とはいえ、話さなければ解放して貰えそうにないと判断した純は、努めて淡々と返事をした。
「競技者として、僕の膝はもう限界でした。せやけど、最後に勝生選手をはじめ他の皆と同じ氷の上で戦えた事、彼らの活躍を間近で観る事が出来たのは、ホンマに良かったと思うてます」
「コイツは、今シーズン大会前の痛み止め注射は必須、試合当日も死ぬ程キツイ鍼治療の綱渡りでやって来ました。これで最後だからやれただけの事です。正直、フリーで4Lzを飛ばれた時は気が気じゃありませんでした」
心なしか、昨日までとは違う仕草で藤枝の手が腰に回され、純は表には出さねど内心で動揺していた。
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