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【YOI・男主】愚者の贈り物

第2章 第1日目・SP滑走順抽選会


いきり立つ南と「無視しろ」とばかりに首を振る西郡に、自分は大丈夫だと勇利が返そうとした直後。

「──また随分と、勇ましい事言うてる子がおるんやなあ」

独特のイントネーションとのんびりした物言いに、勇利は反射的に新たな声のした方を振り返る。
するとそこには、どことなく見覚えのある青年が悠然と微笑みながら、先程勇利を揶揄した人物を面白そうに眺めていた。
「本人の知らん所でこき下ろすんならともかく、聞こえよがしなんて…僕ならそない恥ずかしい真似とてもやないけどできひんわ。そこまで言うて事は、当然自分の方があのヴィクトル・ニキフォロフを満足させられるって自信があるんやなあ?」
「な…」
「ひとつ、教えたるわ。フィギュアに限らず競技に『絶対』なんていうのはないで。あるとしたら、それは競技者みんなが限りなくその『絶対』に近づこうと死に物狂いで戦ってるだけや。…よう覚えとき」
青年の深い黒目がちの双眸に真正面から見つめられたその選手は、表情を歪めると下を向いた。
そんな選手の様子を気にも留めず、青年は勇利達の視線に気づくと口角を綻ばせながら言葉を発する。

「久しぶりやなあ。まさに文字通り『Long time no see』や」
「あんたは…まさか…京の上林……!」
「純くんや!西日本大会で会った時からひょっとしたらって思っとったばってん…こぎゃん形で勇利くんとの再戦が拝めるなんて!たまら~ん!」
瞳を感激で潤ませている南はさておき、声もなく青年を見つめ返している勇利と、珍しく驚愕したような表情で呟いている西郡に、青年上林純は、先程勇利に揶揄を飛ばした選手に向けたそれとは違い心の底から嬉しそうに微笑んだ。
「純…くん…?」
「良かった、勇利くん。僕の事、憶えててくれたんやな。忘れられてたらどないしよう、て思うてたわ」
「わ、忘れてなんかないよ。ただ…ちょっとビックリしちゃって」
しどろもどろに勇利が返事をしていると、役員から私語を慎むように注意を受けたので、一同はひとまず再会の挨拶を後回しにした。
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