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【YOI・男主】愚者の贈り物

第2章 第1日目・SP滑走順抽選会


その後、現役復帰を表明したヴィクトルは、ユーロ選手権と世界選手権の選考会でもあるロシアナショナルに出場する為に単身ロシアに帰国。
勇利もまた今後の為にロシアに拠点を移す事を決め、長谷津に残されたヴィクトルのものと一緒に自分の荷物を少しずつまとめ始めたり、密かにロシア語の教室に通ったりしている。

一時はロシアでのアパートも探していたのだが、一般的な留学や就職による移住ではないのに加えて、
「俺の家のゲストルーム、もう勇利の為に空けて待ってるんだけど。旧共産圏のロシアで、学校や会社の斡旋補助もなしに、日本人が個人で住居を探して暮らすのは色々面倒だよ?」
「それとも勇利は、俺と一緒に暮らすのが嫌なの?」とちょっと拗ねたようなヴィクトルに半ば気圧されるように同棲…もとい同居が決まっていた。
かつては神様のように崇めていた筈の愛しい人は、実はワガママでだらしない所もあったり、時には気まぐれにこちらを振り回してきたりと表情が目まぐるしく変わったかと思えば、氷上では一切の妥協を許さないコーチとして、勇利に己のスケートの技術をはじめ様々な事を望めば望むだけ教えてくれる。
最近ではちょっとした事でもヤキモチを焼くようになってきたよなあ、とぼんやり考えていた勇利だったが、抽選会場の役員の号令を聞いて慌てて我に返った。

ヴィクトルが不在の為、今回はコーチ代行として西郡が帯同してくれていた。
「俺はただの張り子で、お前に教えてやれる事なんて何もないぞ」と言っていたが、昔から遠慮なく何でもズケズケ言ってくれる西郡は、勇利にとって頼もしくも有難い存在である。
「勇利くん、久しぶり!GPFはほんなごとお疲れ様でした!」
抽選の順番を待つ勇利の斜め後ろから、南健次郎が相変わらず子犬のように瞳を輝かせながらこちらに熱烈な視線を向けてきた。
「あ、有難う。南くんも元気そうだね」
「はい!あ、そうだ。実はおいが西日本大会に出てた時んこつやけど…」
何かを思い出しような顔で南が言葉を続けようとした時、
「日本の絶対王者は余裕綽々ってヤツですかあ?そりゃ、あのリビング・レジェンドをコーチに従えたんだから、出来ない方が変ですよねえ?昨年全ミスで11位の惨敗エースでも」
勇利達の背後から、好意的とは程遠い揶揄が飛んできた。
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