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【YOI・男主】愚者の贈り物

第7章 第3日目・男子FS(後編)


人気のない所へ移動した後で、純は渋面を隠す事なくいつになく低い声で尋ねた。
「もういっぺん言うてくれへんか。僕の聞き間違えやなかったら」
「明後日のEXで、純の『SAYURI』を踊らせて欲しい」
「理由は?返答如何によっては、幾ら勇利でもただじゃ置かんで」
ユーリの青少年の何処か青臭い煽りとは違った純の黒い瞳が、底の見えない井戸のような闇を孕みながら勇利に凄んできた。
「前にも言うたけど、『SAYURI』は、僕の最高傑作や。安易に他人に使われるのはかなわんし、そんなんで僕の『SAYURI』が穢されるのも、スケーター勝生勇利の価値を下げる訳にもいかん」
「安易な気持ちなんかじゃないよ」
「ほな、何や」
それまで黙って純の様子を見ていた勇利は、口を開いた。
「僕の今シーズンは、ヴィクトルと共にあった。ヴィクトルがいたから僕はここまで来れたし、やっと世界を相手に戦える自覚と自信が出てきた。けど、ヴィクトルも競技に復帰する今後はそうもいかなくなる。ヴィクトルと戦うには、純も言ってたけど単に彼の教えに沿うだけではダメだと思うんだ」
「…」
「ヴィクトルにはない僕だけのスケートを、見せつける必要がある。彼に勝つ為にも」
「…勝つ?」
語尾の上がった純に、勇利は小さくだがハッキリと頷く。
「僕の夢は、昔からずっと変わらない。僕の夢は、ヴィクトルと同じ氷の上で戦い、表彰台の1番高い所から彼を見下ろす事」
大声ではないが力強い意志の込められた勇利の言葉に、純は鼓膜だけでなく全身をゾクリと震わせた後で、小さく息を呑んだ。
「その為にも、純の『SAYURI』は今後の僕に必要な要素だと思うんだ。これまで和プロはあまりやって来なかったけど、他の誰でもない純の振付なら僕は安心して滑れる。だから、」
「……つまり、ヴィクトルに勝つ為に僕の『SAYURI』と、僕を利用したいて言うんやな?」
「乱暴に言っちゃえば、そう…って、純?」
気まずそうに答えた勇利の耳に、地を這うような忍び笑いが響いた。
「ホンマに傲慢で自分勝手もええトコやな……けど、」
「?」
「──最高の答えや」

顔を上げた純は、まるで悪人のような笑顔を勇利に向けてきた。
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