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【YOI・男主】愚者の贈り物

第7章 第3日目・男子FS(後編)


そう返しながら、ふと勇利は純が自分に対しても粗野な物言いになっていたのに気付いた。
「上林は、素の自分を見せられる相手には口が悪くなるらしい」と、昨夜藤枝と部屋を共にしていた西郡からも聞いていたが、純の引退を聞いて涙ぐんでいる南や礼之を慰めている彼の穏やかな横顔と、先程のギャップを思うと満更悪い気持ちはしなかった。

「純、」
「お母ちゃん!お父ちゃんも」
表彰式その他が一段落した会場の一角から、純と良く似た面差しの和服の中年夫婦が、こちらに歩み寄ってきた。
「お父ちゃん。店、平気やったんか?」
「今日は姉ちゃんと婿はんに任せたわ。ホンマえらかったなあ、純」
「純、アンタこんなボロボロの膝で、ようあんな立派な演技…ホンマに…」
涙目で抱き付いてきた母親に、純も思わず瞳を潤ませる。
暫くして顔を上げた純の母親は、勇利の姿に気付くと彼に向き直って会釈をした。
「勝生くん、この度はホンマにおめでとう」
「あ、有難うございます」
「この子な、去年のGPFからずっと勝生くんの事観てきたんえ。『勇利くんはこんな所でへこたれたりせえへん、ホンマは凄いんや』って」
「え…」
「今シーズンも、自分の試合が重のうてる以外は、全部勝生くんの出とる大会、TVの前やけどリアルタイムで応援してたんよ。GPFで勝生くんが4F決めた時なんか、もう号泣」
「ちょ、お母ちゃん!余計な事言わんでええて!」
真っ赤になって声を荒げた純に、思わず勇利も赤面する。
気まずそうに勇利から視線を反らした純は、やがて両親に何かを決意したような顔で口を開いた。
「これまで長い間僕のワガママ聞いてくれて、ホンマに有難う。でも、今日で僕のスケートはお終いや。これからは僕も、上林の人間として店手伝うてくから」
「純、お前はホンマにそれでええんか?」
父親の問いに、純は押し黙る。
「お父ちゃんはスケートの事はよう知らんけど、お前がスケートを大好きな事だけは判ってるつもりや。お前がどうしても手伝いたい言うならともかく、家の事は何も心配せんでもええ。選手は辞めても、お前にはまだスケートでやりたい事あるんと違うか?」
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