• テキストサイズ

【YOI・男主】愚者の贈り物

第7章 第3日目・男子FS(後編)


諸岡は、氷上の勇利とリンクサイドの純を見比べると、同行のカメラマンに指示を出した。
「上林くんを撮って」
「え?でも、勝生勇利の演技はまだ…」
「勝生くんの画はウチの大阪局も撮ってる。だけど、それ以上に今の上林くんを逃しちゃダメだ!」
勇利が世界トップレベルのステップをリンクに刻む度に、純は涙で頬を濡らし続ける。
そして、そんな純の視線の先には、やはり純の姿を視界に捉えては涙を零す勇利の姿があった。
(純…!)
(勇利…!)
心の中で互いの名を呼びあう度に、2人の瞳には新たな涙が溢れてくる。
やがて、軽やかに宙を舞った勇利が完璧な4Fで着氷した瞬間、純はとうとう堪えきれずに嗚咽を漏らした。
そして、これ以上涙が零れ落ちぬよう歯を食いしばりながら最後のポーズを決めた勇利は、手を真っ直ぐ純へ伸ばしながら、小刻みに身体を震わせた。
会場の大歓声に応えた後で、リンクサイドで待ち構えている純を見る。
声は聞こえなかったが、純の口元が「素敵やったで」と動いた後で綻んだのを確認すると、とうとう勇利は涙を拭う間もなく彼の元へと駆け寄った。

「勇利、最高や!ホンマに…って、泣き過ぎや!『試合中に泣かん』言うてたの誰やねんな!」
西郡から預かったティッシュケースから、数枚勇利の鼻元にかざして鼻をかませる。
「ああ、もう!昨日から泣きっ放しやな、僕ら…」
ブレードカバーを嵌めながらベソをかくのを止めない勇利に苦笑しながら、純はティッシュケースを西郡に返すと、勇利の頬をその手で優しく掬い上げる。
「有難うな、勇利。僕の中では、GPFよりも素敵な演技やったで」
「純~~」
純の頬も自分と同じくらい涙で濡れているのを見た勇利は、純の顔に手を添えると、互いの額をコツリと合わせた。
ややあって「いい加減にしろ」と西郡からキスクラへ来いと急かされた勇利は、純の手を取ったまま移動する。
「え?い、いや僕は」
純は辞退を申し出ようとしたが、「坐れ」と言わんばかりに空いてるスペースをバシバシ叩いている勇利に、
「判ったから!ホンマ、昔から大人しい顔して主張は曲げへんな…」と辟易しながら腰掛けた。
/ 64ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp