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【YOI・男主】愚者の贈り物

第7章 第3日目・男子FS(後編)


『まったく、どうして君はそうなんだ。上林くんは本番でもあんなに冷静だというのに』
あの頃から練習では成功するも、肝心の試合では失敗ばかりな4Sに悩まされていた勇利が、当時のコーチから叱責される度に出てきた純の名前。
自分が悪いのは判っていたが、何かと引き合いにされる度に勇利の心は頑なになり、そしてそれは当の純とも見えない壁を作っていったのだ。
(思い出した…あの頃から、純は僕の4Sについてアドバイスしてくれてたじゃないか。それなのに、僕は…)

西郡と純は、何処と無く勇利の様子がおかしいのが気になっていた。
「3Lo…従来の構成に戻したか?でも、その割には何か…」
「他の要素もクリーンやし、調子が悪い訳でもないみたいやけど…勇利、まさか僕がいらん事言うた所為で…?」
弾かれたようにリンク上の勇利を見る純の視線に気付いた勇利は、ほんの僅かに首を横に振った。
(違うよ、純の所為じゃない。ごめん、純。僕は、薄情で自分勝手な奴だ。純の優しさどころか、存在すらなかったものにしようとしてた。なのに、純はこんなどうしようもない僕を、素敵だと言ってくれた。力を貸すと言ってくれた…!)

勇利の瞳には、いつしか涙が滲んでいた。
冷静に要素をこなす裏で、自分がこれまで蔑ろにしてきた純への想いが、後から後から溢れてくる。
(これからも僕は戦える…彼らと、そして『彼』と!だから純、もっと僕に力を貸して。純の力が、僕には必要なんだ!)
「純…純…!」
「!ゆう…」
小声で純の名を呟きながら、零れ落ちる涙もそのままにステップを刻む勇利を見て、純は無意識に彼に向かって手を伸ばそうとしたが、背後から藤枝に手首をきつく掴まれた。
「──もう、お前は『あっち』には行けねえよ」
「後で、アイツの涙拭いてやってくれないか」
西郡からトイプードルを模ったティッシュケースを受け取った純は、それを抱きしめながら小さく頷く。
そんな純の黒い瞳にも、勇利と同じ位の涙が溢れ始めていた。
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