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【YOI・男主】愚者の贈り物

第7章 第3日目・男子FS(後編)


「僕らの年代は、フィジカル的にもう無茶は出来ひん。せやから、自分の中でのボーダーラインの質を、今後は一段階上げるようにし。迂闊な博打をせんでもええように」
「…うん」
「あと、僕が観た限りでは、4Fの精度も試合を重ねる毎に上がってきとるから、よっぽど力まなければ大丈夫や。もうヴィクトルやのうて、勝生勇利の代名詞にしてもええ思うけど?」
「え、まだそこまでは…」
「また、そんな弱気な事…じゃあ今は、勝生勇利とヴィクトル・ニキフォロフ2人の代名詞に…って、何で赤ぉなってるねん」
頬を染めて下を向いた勇利に、純は呆れたような顔をする。
「ヴィクトルへの想いを大切にするのはええ。せやけど、勇利。君は、何も持ってへんゼロの状態から、彼に教えを与えられたんと違うで」
「え?」
「元々勇利は充分戦える力を持っとった。せやけど、僕を含めた色んな余計なモンが君を雁字搦めにしとったんや。ヴィクトルは、それを解き放っただけや」
「そんな!純は、余計なんかじゃないよ!」
「…有難う。さあ、そろそろ行かな。ヴィクトル・ニキフォロフの教えを旨に、勝生勇利だけの、勝生勇利にしか出来ん素敵な滑りを目指して頑張り」
いつもの笑顔に戻った純に肩を叩かれて、勇利は頷くと、周囲の「勇利、ガンバ!」の声援に背中を押されながらリンクへと進んだ。
『さあ、ついに最終滑走者の登場です!遅咲きの新星、日本のエース勝生勇利!曲はお馴染み「Yuri on Ice」!』
(僕だけのスケートを。ヴィクトルにも出来ない、僕だけのスケートを…)
ヴィクトルが競技復帰した今、これから彼とまた氷の上で戦う事になるのだ。
確かに純の言う通り、いつまでも自分のスケートの中にあるヴィクトルの存在ばかり見せていてはダメだ。
あの時とは違う。
これで競技引退だと思っていたGPFのあの時とは。

ユーリとの特訓の甲斐があって成功率が上がった4Sを難なくこなし、次の要素に入ろうとした勇利の脳裏に、ある言葉が響いてきた。
『そう!今のサルコウ綺麗やったで!右足の勢い利用して、軽~く飛んだらええねん。勇利くんの場合は、力んで回りすぎとったから失敗してただけや』
(純…?)
ふと、ジュニアの頃のリンクの思い出が、勇利の中に蘇ってきた。
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