• テキストサイズ

【YOI・男主】愚者の贈り物

第7章 第3日目・男子FS(後編)


乱暴にキスクラの椅子に下ろされた純は、恨みがましく藤枝を睨もうとしたが、いつになく真剣な表情の彼に気づくと目を数回瞬かせた。
やがて得点が表示され、両足着氷だったサルコウのみURを取られたが、それ以外の4回転ジャンプはいずれも認定されており、SPと同じくシーズンベストとパーソナルベストを更新した純は、暫定1位となった。
「…有終の美やな。満点やないけど、僕の中では充分上出来や」
「ったく、お前みてぇな生徒は前代未聞だぜ。ロクに言う事聞かねえわ、弁が立つから何かにつけて口答えはするわ、本当にお前は最悪で……最高の生徒だったぞ」
アクの消えた笑みを漏らしながら、拳を合わせてきた藤枝は、そのまま純の手を引き寄せると、抱きしめてきた。
くしゃり、と髪を撫ぜられながら耳元で何かを囁かれた純は、咄嗟に藤枝から離れようとしたが、藤枝の腕がそれを許さない。
戸惑いとも羞恥ともつかぬ表情のまま、暫し藤枝の胸に顔を埋めていた純だったが、やがて何かを思い出したように振り返ると、礼之と南を見た。
「ええか。今僕の出したこの点数が、世界で戦えるギリギリのラインや。この僕を抜かせんようじゃ、とても世界なんか狙えへんで?」
「…はい!南さん、やりましょう。上林さんがここまで見せて下さったのに、応えられないなんて男じゃないです!」
「うん、アレクくん!おいもやる。練習の時純くんに教えて貰った3Aばクリーンに決めて、純くんに勝ってみせるとです!」

礼之は意気揚々とリンクへと踊り出ると、かつて他人ばかり気にして肝心の自分の事が疎かになった為に完敗した、昨年のJGPFを思い出した。
圧倒的な強さで自分を打ち負かした『ロシアの妖精』。
今季最高のシニアデビューを果たした彼を、来季で追いかけるつもりでいた礼之だったが、純の言葉を聞いた後でもう1年待つ事にした。
その代わり、ジュニアでの彼の記録を全て塗り替え、万全の状態でシニアへと殴り込む事を決めたのだ。
上ばかり見ている彼の足元を掬う刺客に、この自分がなってみせる。

新たな決意を胸に秘めながら、礼之はシニア顔負けの力強い滑りを会場に見せつけた。
/ 64ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp