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【YOI・男主】愚者の贈り物

第2章 第1日目・SP滑走順抽選会


クリスマスも近い12月下旬。

全日本選手権の会場の片隅で男子SP滑走順を決める抽選会を前に、勝生勇利はボソボソと消え入りそうな声で誰かと英語で電話をしていた。
「だから、僕の事よりも自分の準備はできてるの?そっちもこれからでしょ?…うん、判ってる。油断しないようにだけ気を付けるよ。こっちの演技は長谷津での録画をリモートしてそっちのスマホで観れるって言ってたよね?じゃあ、練習や他の動画はまた改めて送るから…うん。え、何?」
電話越しに返ってきた英語の言葉を耳にした勇利は、わずかに動揺する。
「ちょ、冷たいって…そりゃ、僕だってヴィクトルの傍にいたいよ!だけど、仕方ないだろ?こっちの全日本とそっちのロシアナショナルは日程ほぼ同じなんだから。それに僕も、特にヴィクトルは久々の試合なんだし、そーいうのは……ああ、もう!」
スマホを持つ手と反対でガシガシと頭をかきむしると、勇利は少しだけ顔を赤くさせながらゴホンとひとつ咳払いをする。
「…ヴィーチャ、ティー スモージェッシュ、ダバイ(君ならできるよ、頑張って)……えぇ、もう一声!?」
「おい勇利、そろそろ抽選始まるぞ」
「あ、ごめん。すぐ行く。ホントにこれで切るからね。スクチャーユ パ チェベー(さみしいな)…ヴィーチェニカ」

ただたどしいロシア語でこっ恥ずかしい科白を口にした後、通話口に向かって小さく唇を鳴らすと「うん、俺も~♪」という満面の笑顔が容易に想像できそうなヴィクトルの返事もそこそこに、勇利はスマホを切ると西郡に促されながら滑走順を決める抽選会場へと足を急がせた。

当初はGPFで競技を引退するつもりでいた勇利だったが、FSでプリマの仮面をかなぐり捨てたユーリ・プリセツキーの魂の演技に己の本心と闘志を揺さぶられ、0コンマ以下の僅差とはいえ結果的に金メダルを逃した事もあり、土壇場でそれを撤回した。
彼の為を思って一方的にコーチ解任を告げていたヴィクトルに対しても、表彰式の後で自分の本当の気持ちを赤裸々に打ち明け、同時に胸の奥底に秘めていた互いの熱い想いを心と身体で存分に確かめ合ったのだ。
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