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【YOI・男主】愚者の贈り物

第6章 第3日目・男子FS(前編)


純がリンクに到着すると、自分達の2つ前の滑走グループの選手達による公式練習が行われていた。
リンクサイドの一角に、勇利や南をはじめ最終グループの選手や関係者の姿を確認した純は、自分に気付いた勇利達が手を振ってきたのに応えながら、少しだけ足を急がせて彼らの元へ向かった。
「純くん、おはようございます!」
「おはようさん。といっても、もうすぐ昼やけどな。昨夜はよう寝れたか?」
「バッチリです!」
「僕は、中々寝付けなかったんですけど、コーチに言われて早目にベッドに横にだけはなってました。でも、疲れは取れてます」
子犬のような無邪気な笑顔で寄ってきた南と礼之を微笑ましく見つめた後で、純は少し離れた所で軽く身体を解している勇利と西郡に視線を移した。
「2人共、昨夜はホンマに悪かったなあ。特にウチの『ヒゲ』が迷惑かけて」
「ううん、大丈夫だよ」
「上林、お前藤枝さんに対してホント容赦ねぇな…」
勇利達の傍まで近付いた純は、ふと何かを思い出したような顔で呟く。
「何かこうして3人でおると、ノービスやジュニアの頃思い出すなあ」
「あ、そうだね」
「まあ俺は、お前らと違って地方大会止まりだったけどな」
「ええ?僕、ジュニアの西郡くんのあのプロ大好きやってんで。ええと、ホラ…」
その場で歌いながら何かの振り付けを始めた純に、西郡が仄かに顔を赤らめながら「何でそんな昔の憶えてんだよ!」と照れ隠しに声を荒げる。
「だって僕、素敵なプロは忘れへんもん。勇利は黒歴史衣装扱いしとったけど、『ローエングリン』も結構好きやで」
「えぇ…」
「ハイハイハイ!おいも、勇利くんの『ローエングリン』は衣装もプロも名作やと思います!」
「ぼ、僕も勝生さんのアレ、好きです…」
好対照な反応で同意見を示した南と礼之に、困惑顔の勇利を除いた一同は声を上げて笑った。

その後ウォーミング等している内に、いよいよ勇利達最終滑走グループの公式練習時間となった。
いつの間にか隣にいた藤枝を一瞥すると、純は専用のバッグからシューズを取り出し、履き心地や紐その他の具合を確認する。
不安が全くないと言えば嘘になる。
しかし今の純には、競技者として大切な仲間と氷の上に立てる喜びの方が、遥かに大きかった。
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