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【YOI・男主】愚者の贈り物

第6章 第3日目・男子FS(前編)


地獄のような鍼治療を終えた純は、会場に向かう途中でスマホにとある人物から連絡が来たのを確認した。
『純、いよいよやな。調子はどうや?』
電話の相手は、純のFS制作に協力してくれた幼馴染だった。
純より2つ歳下の幼馴染は、かつては同じピアノ教室に通っていたが、音楽は好きだがあくまで趣味レベルの純とは違いそちら方面の才能に恵まれた彼は、小学校中学年頃からチェロの道を志すようになり、現在は地元の芸術大学で研鑽を積んでいる。
純がFSのプログラム作りに難儀していた頃、偶然近所で再会した彼に誘われて彼の組むピアノカルテットが出演する演奏会を観に行く事になり、そこで彼らの演奏に、純は一瞬にして魂を揺さぶられた。
ブラームス作曲のピアノカルテット第3番・最終楽章。
これこそ自分の現役最後の演技に相応しい曲だ、と。

終演後、幼馴染にこの楽曲を自分のスケートに使用したい旨を述べた純だったが、倍近くも演奏時間が異なるこの楽章をどのようにスケートのプログラムに取り込む気なのか、またそれは原曲のイメージを損なうような事にはならないのか等と、幼馴染をはじめ他のメンバーからも厳しい指摘が来た。
そればかりか、彼らの担当講師であるドイツ人の教授までもが、純に対して「ブラームスと音楽そのものに対する冒涜だ」と詰め寄る事態にまで発展しかけたが、純も負けじとドイツ語で自分の主張を通し、ついには「どのような構成にするつもりか実際に弾いてみろ」とご丁寧にドイツの出版社の楽譜を押し付けられ、一時はスケート以上にピアノの練習をする羽目にもなったのである。

「あの時は、ホンマに焦ったで。お前が『コイツ、ピアノ普通に弾けますねん』とか余計な事言いよるから」
『まあまあ。でもあれで僕の仲間も教授も純の本気を判って、しまいにはリンクにまで顔出しとったやんか』
「事ある毎にドイツ語の巻き舌で『Brahms!』て繰り返しとった時は、年寄りのジジイがリンクの寒さで頭やられたかと思うたけどな」
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