• テキストサイズ

【YOI・男主】愚者の贈り物

第4章 男子FS・前夜


勇利の身体を支えられなかった純は、そのまま床に引っくり返った。
「ちょ、重い!…はあ、勇利は昔から泣き虫なのちっとも変わらへんなあ」
「先に泣いたのは、純の方さぁ」
「うんうん、そやったな。ごめんなあ」
しがみついて離れない勇利の背中を数度叩いた後で、純もまた勇利の身体を抱き返す。
グシグシと泣きべそをかき続けている勇利の顔を見つめる純の目にも、新たな涙が滲んでいた。
「…もう少し早く再会できたら、また違ってたのかな」
少し落ち着いたらしき勇利が、しゃくり上げながら問う。
「ううん。ちょっとでも早かったり遅かったりしたら、多分こうはなれへんかった。今やったからこそ、僕らはこうして判り合う事が出来たんやと思う」
「純…」
勇利に頷きを返すと、やがて純はゆっくりと身体を起こすよう言った。
「勇利。君は君自身が思うてるより、ずっと素敵なスケーターになれる。せやから後はもっと自分を信じて頑張り。その為やったら、僕で良ければなんぼでも力貸すから」
「…うん。有難う、純」
「僕も、明日は競技生活の全てをぶつけるから。見届けてや」
「純のFSは、ピアノカルテットだっけ」
「そ。ピアノコンチェルトとは違った魅力やねん。…道のりは長かったけどな」

何処か遠くを見るように呟く純に勇利が首を傾げていると、ポケットの中のスマホが鳴った。
相手は西郡で、何でも自分達の部屋で待機していた藤枝が寝入ってしまったので、今夜はもうそっちで泊まってはどうかという連絡であった。
「はあ?ヒト様の部屋で何しとんねん、あのヒゲ!西郡くん、ええから今すぐ叩き起こして」
『そういう訳にもいかないだろう。もう遅いし、お前らも早く寝ろ』
言いたい事だけ告げた後で電話が切れてしまったので、結局勇利は、純の部屋に泊まる事になった。
「ジュニア時代の合宿を思い出すね」等と話しながら、2人は数年ぶりに同じ部屋で眠った。

「僕、頑張るよ。だから純も頑張って」
「そうやなー。僕が大逆転優勝するんやけど、発表の場で引退宣言して勇利にワールドの権利譲るいうのも、ドラマチックで面白そうやなあ」
「あ、言ったな?…絶対負けない」
「ふふ。負けず嫌いなのも相変わらずや」
/ 64ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp