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【YOI・男主】愚者の贈り物

第4章 男子FS・前夜


夜中。
喉の渇きに目を覚ました勇利は、隣のベッドで寝息を立てている純を起こさぬよう移動すると、テーブルの上に林立する予め自由に飲んでいいと言われていたミネラルウォーターを手に取った。
身体を冷やしたくないので、室温のそれが今の勇利には心地良く沁み入ってくる。
先程散々泣いたせいで身体が水分を欲していたのか、ペットボトルの半分程一気に飲み干すと、改めて眠る純の姿を見つめた。
(純だって、素敵なスケーターだよ。出来ればこれからも、君のスケートを見たい…)
純の美しいスケーティングや柔軟性の高さは、ジャンプがなくても充分見栄えのするものである。
純自身は既に競技からの引退を決めているが、今後も何かしらの形でスケートに関わり続けて欲しい、と勇利は純粋に考えていた。
(全ては、フリーが終わってからだ。代表選手発表の前に女子FSがあるから、その間に純と話が出来るかも知れない)
再び床に着こうとした勇利だったが、ふと何かに思い当たったような顔をすると、枕元に置いていたスマホを手に浴室へと移動した。
時刻とネットニュースを確認すると、慣れた手付きでとある番号に電話を掛ける。
『勇利?そっちは夜中だろ。寝てなきゃダメじゃないか』
「少し目が覚めちゃっただけ。まずはSPお疲れ様。まだ結果しか見てないけど流石だね」
『有難う。勇利もね。コーチとしては言いたい事はあるけど、悪くない出来だったよ』
「うん、ヴィクトルのお蔭で僕は今の僕になれたんだ。改めて本当に有難うございます」
『…急にどうしたの?』
スマホ越しに不審気な声を出すヴィクトルに、「スケート以外に、きちんと口頭でお礼したかっただけだよ」と返す。
踏み込む事を恐れずに、自分の気持ちを態度だけでなく言葉でも伝えたいと思った勇利は、もう一つだけとヴィクトルに告げる。
「えっと…こんな事、ヴィクトルには今更過ぎて笑われるかも知れないけど」
『俺としては早く勇利に眠って欲しいんだけど、何?』
「僕は…僕は、貴方の事が好きです。……愛してる」
『……』
「お、お休み!」

電話を切り逃げるようにベッドに潜り込んだ勇利は、直後ヴィクトルが耳まで赤く染めてその場にへたり込んだ事など、知る由もなかった。
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