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【YOI・男主】愚者の贈り物

第4章 男子FS・前夜


止まらぬ嗚咽を漏らしながら、床にうずくまってしまった勇利を見て、純もまた床に膝を着くと、彼の眼鏡をそっと外しながら片手で彼の涙を拭った。
「泣かんでくれ、勇利。僕なんかの為に君が泣く必要なんてどこにもあれへん」
「違うんさ!純は、おいに会う為に全日本ば来た言うとったけど、おいは本当はGPFで引退するつもりでいたんさ。周りを無視して自分勝手に決めて、おいにあれだけようしてくれたのに、おいにとって一番大事な筈のヴィクトルの気持ちすら踏みにじるような真似して…」
「…僕、言うたやろ。たとえ叶わんでも、て。自分以外の誰かを思い通りに出来る訳あれへんのやから、もしそうなったとしても、勇利を恨んだりなんかせえへんよ。むしろ、勇利をここまで頑なにさせてしもうたのは、半分くらい僕のせいかも知れへんのに」
「純は悪くない。あの頃から純はおいにようしてくれとったのに、何も理解しようとせんかった。ごめん、純。おいはちっとも素敵なんかやなか。純の言ってた素敵なスケーターになんて…」
「──勇利は、もう充分素敵なスケーターになっとるやんか」
穏やかな純の声を聞いて、勇利はすっかり涙で濡れそぼった顔を上げた。
心無しかぼやけた視界に映る純の瞳も、涙で潤んでいるように見える。
「現役最後の試合で、僕はずっと会いたかった勇利に会う事が出来た。去年のGPFで不本意な結果でも闘志を失わんかった勇利を観たから、僕はここまで来た。勇利が僕をここへ呼んでくれたからやで」
「純…」
「僕だけやない。きっとあのヴィクトル・ニキフォロフも、君と優勝争ってたユーリ・プリセツキーも、皆勇利に引き寄せられたんや。それって、素敵な事やと思わへんか?」
微妙に膝を庇いながら体勢を変えると、純は勇利の肩を労るように叩く。
「試合も勿論大事やけど、僕は、こんなに素敵になった勇利を観れた事が素直に嬉しいねん。…ホンマ、おおきにな」

自分を見つめる純の黒い瞳が、あの頃と変わらず優しく細められるのを見止めた瞬間、勇利は泣き声を上げて彼に抱きついた。
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