第3章 第2日目・男子SP
諸岡のインタビューを終えた勇利達は会場を後にしようとしたが、その時何かを見つけたらしき純が「先行っててええで」と勇利達から離れて歩き始めた。
何処に行くのかと3人が視線で追った先には、会場の一角でうずくまっている人影と、それを慰めているような姿があった。
抽選会で勇利に対して暴言を吐いた彼は、SPで純の後に滑走したのだが、まるで昨シーズンの勇利の如くジャンプをはじめ殆どの要素を失敗してしまった。
勇利ではなく、長い間公式戦から離れていた病み上がり選手の次ならば問題ないだろうと高を括っていた筈が、勇利に続いた純の圧巻の演技を観て『リンクの魔物』に取り憑かれてしまったのだ。
四大陸選手権候補にも挙げられていた彼の予想外の大自爆に、コーチや周囲も上手く慰めの言葉をかけられずにいたが、ふと彼の前に現れた純に驚きの声を上げた。
「よう判ったやろ。自分の事も満足にできひん奴が、他人に余所見ばっかしとったらどうなるのか」
嘲りでも哀れみでもない真顔で諭された彼は、何も言い返せずに下を向く。
すると、純は彼の高さに合わせるようにしゃがみながらポケットから取り出したハンカチを、彼の手に握らせた。
「いつまでショボクレとんねん。もう遅いし、さっさとホテル帰り」
「え?」
「フリーには足切りされんと残ったんやろ?今日が君史上最低最悪の演技やったけど、明日からまた頑張ればええだけやんか。FSに比べりゃSPは所詮全体の3分の1や。残り3分の2、どうするかは君次第やで」
ポンと彼の肩を叩いた純は、コーチ達に会釈をすると自分を待っていてくれた勇利達の所へ戻った。
「純くんは、優し過ぎです。あんな勇利くんに酷いこつ言うた奴の事なんか…」
「僕も南さんに賛成。彼の場合は因果応報ではないですか」
「ヒトの失敗を、そんな風に言うたらあかん。誰だって失敗したくてしてる訳やないやろ?それに…あのコは昔の僕にちょっと似とるから、放っておけへんかったのもあるし」
「ええ?あいつと純くんじゃ大違いやなかですか!」