第3章 第2日目・男子SP
「西に勝生がいるならば、京にはこの上林がいる!『氷上の風雅人(みやびびと)』が、師走の大阪に復活!」
(相も変わらずクサイ実況やめーや。しょっぱいねん)
内心で毒づきながら、純は表面上は涼しい顔のままリンクを後にした。
コーチの藤枝からブレードカバーを受け取り、キスクラへと向かう。
得点は、勇利に比べるとかなり低いが、それでもシーズンベストとパーソナルベストを更新した事で、納得とまではいかないが安堵の息を吐いた。
「大方予定通りだったか。お前は心配症だから、何度もリカバリの練習重ねてたしな」
「…クワドと最後のコンビネーションが、どうにか認定されたみたいで良かったわ。特に勇利の後じゃ分が悪いのははじめから判っとったし、まあ及第点ってトコやな」
藤枝と軽く拳を合わせると、疲労と疼痛を訴えている自分の右膝を見下ろしながら、純はどこか達観したような顔で呟いた。
男子SPの結果は勇利が群を抜いて1位で、2位以下はかなりの混戦状態となった。
勇利と純の演技に触発されたのか、その後失敗を恐れず果敢に攻めた南と礼之が2位と4位、そして僅差で純が5位につけ、翌日のFS最終グループに全員が入ったのである。
「お疲れ様でした!勝生選手、見事な演技で圧倒的な強さを見せつけましたね」
「あ、有難うございます。明日のフリーも『愛』の力で頑張ります」
「う~ん、そろそろ他の科白も欲しいかなあ。上林選手も、見事なSPの舞でしたね」
「何とか、嘘つきにならんで良かったですわ。明日は出し惜しみせんと、自分の持ってる全てを出し切りたいと思うてます」
互いに見つめ合う勇利と純を微笑ましく思いながら、諸岡は次いで若手の2人にマイクを向けた。
「南選手と伊原選手も、大活躍でしたね」
「勇利くん達ばっかに、ええカッコはさせてられんとです。フリーはおいも頑張ります!」
「ジュニアだから、なんて言い訳はしません。やるからには全力で挑みます」
「ベテランの活躍と若手の大躍進、どちらも素晴らしかった男子のフリーは明日、決着です!」