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【YOI・男主】愚者の贈り物

第3章 第2日目・男子SP


GPF終了後、ロシアナショナルの調整の為に帰国したヴィクトルとは離れ離れになってしまっている。
お互い練習の合間を縫ってメールや電話でやり取りはしているが、やはり長谷津で共に過ごしていた頃とは勝手が違い、彼の存在を身近で感じる事ができないのは寂しいと勇利は思う。
かつては同じ場所にいる事ですら恐縮していた自分から、どれほど図々しくなったのだろうか。
そして試合直前だというのに、勇利の脳裏にはあの夜自分の背に幾度も爪を立てては縋り付いてきたヴィクトルの、まるで子供のように無防備な泣き顔がこびりついて離れない。
「おい、勇利!もうすぐ出番だぞ!」
「…勇利?ホンマに大丈夫なん?」
西郡と純の声を耳に、勇利はつと顔を上げる。
そして、2人の心配そうな表情を見比べながら、きっと今の自分の頭の中を覗かれたら確実に呆れるか怒るかするだろうと思うと、何故か笑いがこみ上げてきた。

『同じプログラムでもルーチンワークのようにいかないのが、フィギュアの面白さだよ。まさにライブのような一期一会。要素を真面目にこなすのもいいけど、もっと勇利はスケートを楽しむ事も覚えなきゃ。滑っている勇利が全然楽しくなかったら、観ている人も楽しめないんじゃないかな?』

「──そうだったね、ヴィクトル」
「何だ?」
「ううん、僕は大丈夫だから」
2人に笑顔でそう返すと、直後アナウンスで自分の名が呼ばれたのを確認した勇利は、リンクの中央へと滑り出していった。

終盤の4Fを避け従来の構成に戻した勇利のSPは、GPSロシア大会の時程ではなかったが圧倒的な力を見せつけ、リンク全体が歓声に包まれた。
いつもよりやや挑発的な表情で決めたフィニッシュポーズが、まるで自分の身体ではなく愛しい誰かを抱いているかのようにも見え、特に女性から黄色い悲鳴が多く聞こえてくる。
「いやー、TVで観るより大迫力やったわ。けど、あんなカッコええ事された後やと、出て行きづらくなるなあ」
キスクラの勇利達に向かって小さく手を叩きながら、純はのんびりと呟くと、やがてフラワーガール達による整理の終わったリンクに向かって滑り出す。
黒と紫のグラデーションが映える和風の衣装に身を包んだ純の背をキスクラから見た勇利は、無意識に叫んでいた。
「純ー!おきばりやすー!」
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