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【YOI・男主】愚者の贈り物

第3章 第2日目・男子SP


6分間練習で氷の状態を確認しながら、勇利は頭の中でプログラムの内容を反芻する。
(これまで何度もヴィクトルと確認して一緒に作り上げた僕のプログラム。『愛について・エロス』を滑るのも、今年はこれが最後だ)
当初はエロスについての定義がよく判らず、漠然とカツ丼だの美女だのを演じてきたけれど、今日は自分の中にあるエロスをどのように演じれば、観ている人が楽しんでくれるのだろうか。
「『アモル・マギステル・エスト・オプティムス』」
最終グループの1番滑走なので他の選手より早めに練習を切り上げようとした勇利は、ふと純の声に耳を擽られた。
「純も上がるんだ。今の言葉、何?」
「この足は、あんま無理できひんねん。今のはラテン語の名言や。『愛は最良の教師である(Amor magister est optimus.)』」
勇利に続いてリンクから上がった2番滑走の純は、勇利の問いに答えると言葉を続ける。
「勇利が演じとるエロスや、ロシアのプリセツキーのアガペーみたいに『愛』には色んな形があるけど、自分以外の誰かは皆自分のセンセで、その人らからそれぞれの『愛』を貰うてるんやと僕は考えとる。それが嬉しいか迷惑かはさておき、な」
「愛は最良の教師…」

そう聞いて真っ先に勇利の脳裏に浮かんだのは、ヴィクトルである。
幼い頃から自分の中に大きく存在し続けてきた愛しい人。
そんな彼をずっと追いかけていた自分は、やがてひょんな事から彼と出会い、間近で同じ時間を過ごし、それから……
「…っ!」
「ど、どないしたん!?」
「何でもない」
突然、真っ赤になって片手で顔を覆った勇利に、純は喫驚する。
(こんな時に何を思い出してんのさ、僕は!)

GPFの表彰式が終わり、現役続行と競技復帰を決めた勇利とヴィクトルは、最低限の取材を受けた後「詳細はまた改めて」と切り上げ滞在先のホテルに戻ると、堰を切ったように互いの感情と想いを包み隠さず吐き出し、やがて言葉だけでは足りずに身体も重ね合った。
SPが終わった夜に見たヴィクトルの白皙の頬を綺麗に伝っていた涙とは違い、彼の溢れ出した感情のままとどまる事を知らずに流れ続けるそれを、勇利はベッドの上から見下ろしながら、己の指や舌で何度も掬い取っていたのだった。
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